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両手いっぱいの〇〇 第267話

 莉玖(りく)は由羅が寝かせてくれていた座布団の上で起き上がってキョロキョロしていた。  オレと由羅が部屋に入ると慌てて立ち上がろうとしたのだが、座布団の上だったので不安定だったのか、すぐにペタンと尻もちをついた。  莉玖は立つのが難しいとわかるやハイハイに切り替え、猛スピードでオレの足にしがみついてきた。  莉玖の判断は早い。  そういうところは血のつながりがないとは言え、由羅に似ていると思う。 「莉玖~、おはよ~」 「ああああああああのおおおおおおおおおおお!!」 「はいはい、ごめんな、ちょっと向こうでお話してたんだよ」  寝起きによく知らない場所でひとりぼっちだと怖いよな~。  莉玖はたまに莉奈(りな)のことが視えてるみたいだし、ここは何かちょっと特殊な空間だっていうから視えるかもと思ったけど、ダメだったか? 「やっぱりどっちか残ってた方が良かったかもな。目が覚めてひとりだったから不安にさせちまったかも」  莉玖を抱き上げ、背中をポンポンと撫でて落ち着かせながら、由羅に苦笑いをした。 「莉奈のことは視えていないのか?」 「う~ん、莉玖はいつでも視えるってわけじゃねぇから……莉玖~、ママどこだ~?」 『莉玖~!ママですよ~!こっちだよ~!』  莉奈も必死に手を振る。 「まんま?」 「いや、ご飯じゃなくて、ママだ。ここでおてて振ってるだろ?視えないか?」  すぐ隣で手を振っている莉奈の方を指差してみるが、莉玖はオレの顔ばかり見る。 「てって?あ~の?」 「だめか~……」 『ダメか~……』  オレと莉奈の声がハモった。 「莉奈はそこにいるのか?」 「ん?うん。オレのすぐ横にいるけど……まぁ、視えないもんは仕方ねぇな」 『今日は視えない日みたいね……残念……』 「あ~の、おた!あ~ちゃい!」  ガックリしている莉奈のことなど露知らず、莉玖が手のひらを上にして両手を揃えて「おちゃください」の仕草をした。 「ん?お茶が欲しいのか?ちょっと待ってな、え~と……」 「これか?」  オレがお出かけバックに手を伸ばそうとすると、由羅が先にお茶の入ったミニボトルを取ってくれた。 「あ、そうそう。はい、どうぞ」  莉玖が飲みやすいようにマグにうつして渡す。 「あ~と!」  莉玖はペコリと頭を下げて、お茶を飲み始めた。   「もうお茶なくなっちまったな。今日暑かったからいっぱい飲んだしな~」  オレは空になったボトルを覗き込みながら、誰に言うともなく呟いた。  もう帰るだけだし、大丈夫かな?  すごい勢いでお茶を飲んでいる莉玖を見て、もうちょっと持ってくるべきだったなと内心焦っていると、由羅がオレの頭をポンと撫でてきた。 「綾乃、水はダメなのか?」 「ん?あぁ、ここの水か?」 「お茶を入れるために沸かしたのがあるだろう?あれを冷ませば莉玖でも飲めるんじゃないか?」 「そうだな、白湯なら大丈夫か。ちょっと入れて来る。莉玖~、パパと一緒にいてくれるか?」 「莉玖、パパにおいで。綾乃が白湯を入れて来てくれるからな」  由羅がオレから莉玖を抱き取ろうとすると、莉玖が手足をジタバタさせた。 「やっ!!パッパ、い~やっ!!り~も、あっち!あ~の!」 「莉玖も綾乃と行きたいのか?わかった、それじゃパパと一緒に行くか」 「あい!」  莉玖がついて行きたいと言うので、結局、由羅が莉玖を抱っこして一緒に来ることになった。  大丈夫かな~?あっちには月雲たちがいるのに…… ***

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