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両手いっぱいの〇〇 第269話

「さて……どこから話そうかねぇ……」  水を飲んでちょっと酔いが醒めた月雲(つくも)がスルメを噛みつつ天井を見上げた。  その横では、散々飲み散らかした住職が大の字になっていびきをかいていた。  いや……だからなんで幽霊のはずの住職が寝てんだよ!? 「あやりんは、何が知りたい?」 「え?」  急に自分に矛先が向いたので、ちょっと焦る。  っつーか…… 「う~ん……なんかもうどうでもよくなってきた……」 「ちょっ!?」 「いや、いろいろ気になることはあるんだけどさ……」 「それ!それを言って!はい、何が気になる!?」 「気になることがありすぎて、もうどうでもいいやって……」 「あやり~ん!もうちょっと頑張って興味持ってぇ~!?」 「師匠、お静かにっ!」  オレにツッコむ月雲の声がだんだん大きくなってきたので、すかさず由羅がひと睨みする。  胡坐をかいて座る由羅の膝の上には、満腹になった莉玖が満足顔で爆睡していた。 「っと……悪ぃ……」  月雲が慌てて口を押さえ、莉玖が泣き出す様子がないのを確認すると、ふぅ~っと息を吐いた。  いや、別に静かにしてくれればいいだけで、呼吸まで止める必要はねぇんだけどな……? *** 「んん゛、そんじゃ、とりあえず……ゆらりんの霊力(ちから)の半分が俺の霊力っつー話からするか?」 「あぁ……そうっすね……んじゃ、そこからお願いします」  オレは本当にもうどうでもよくなっていたので、素っ気なく促した。  気になることはいっぱいあるけど、めちゃくちゃ知りたい!!ってわけでもねぇんだよな~……だって……考えてみればさ、聞いたところでオレの霊力が上がるわけじゃねぇし、由羅がまた視えるようになるわけじゃねぇし……? 「そうでもねぇかもよ?」 「……え?」 「あやりんにも関係してるかもよって話」  だから、なんでこの人はオレの考えてることがわかるんだよっ!?  オレがちょっと訝し気に月雲を見ると、月雲はスルメを口に咥えたままニッと笑った。 「ほら、さっき俺と出会った頃のゆらりんは厄介な状態だったって言ったろ?」 「あぁ、えっと……でっかい怨霊が憑いてたってやつ?」 「それだ。で、まぁ、簡単に言えば、ある日ゆらりんが自分に憑いてたそのでっかい怨霊に()り殺されそうになって、それを無謀にもひとりで祓おうとしたせいでゆらりんの霊力は一時期ほぼ0に近い状態になっちまってな。そのままだと危険だから、優しい俺はこの可愛げのない弟子に霊力を半分わけてやったってわけ」 「……へ?」  憑り殺され……!?  オレは思わず隣に座る由羅をマジマジと見た。 「そ、そうなのか!?」 「あぁ、そうらしい。私は倒れていたからハッキリとは覚えていないが、師匠が何かしていたのは覚えている」  オレが気になったのはというところだったのだが、由羅は霊力をわけてもらったことについて聞いているのだと思ったらしい。  その時のことを思い出したのか、ちょっと気まずそうに顔をしかめる。 「まぁ、ゆらりんは霊力使い切ってボロボロになってたからな~。俺に黙って勝手なことするからだぞ~?」 「はい、そうですね。自分でもバカなことをしたと思ってますよ」  由羅が苦々しい顔をしつつも月雲に素直に同意した。  由羅がこんな顔するってことは、よほどのことだったのだろう。  って…… 「え、待って、ちょっと混乱中……」  オレはいろいろ混乱して頭を抱えた。  由羅がひとりで祓った?そりゃまぁ由羅の霊力は強いらしいから祓うこともでき……あれ?…… 「……なぁ、子どもの頃の由羅は自分の霊力を制御出来なくて手あたり次第に除霊しまくりだったって言ってたのは?」 「そうそう、そのせいで俺が住職に呼び出されたんだよ」 「いや、おかしくないか?だって……」  除霊しまくりなら、怨霊に憑かれる隙なんてねぇだろ?  手あたり次第にっつーのは冗談だったのかと思ったが、それも本当なら話が矛盾していることにならないか? 「そりゃまぁ、浮遊霊みたいな雑魚やちょっとした怨霊なら簡単に除霊されちまうけど、ゆらりんに憑いてたやつは並みの怨霊じゃねぇからな。生きている身内からの怨念が形になったようなもんだったから、厄介だったんだよな~」 「それって……生霊……?」 「まぁ、そうだな。亡くなっていればそのまま成仏させられるけど、生霊の場合は本体が恨みを持ち続けている限りはまた怨念が募って怨霊となる。呪いみたいなもんだからキリがねぇんだよ。本体が恨むのを止めてくれればいいんだが、たいていそういうやつは本体自身がもう悪霊に魅入られてるから、本体の意思なんて関係なく負の感情に支配されてる場合もあるし、何より……ゆらりんがこんな性格だし?」  月雲が苦い顔で由羅を指差した。 「相手を煽るような言動ばっかりするから、相手の恨みがなくなるどころか年々増えていっちゃうんだよな~……」 「私は別に何も言ってませんよ。今ならともかく、あの頃はまだそんなに発言力もありませんでしたからね」  由羅は心底心外だという風に顔をしかめたが、オレには月雲が言う意味がなんとなくわかる。  たぶん、子どもの頃から由羅は感じだったんだろうな~…… 「綾乃?なんで納得してるんだ?」 「いや……うん、まぁ……発言力とか云々よりもさ……あの親戚らにしてみれば、お前のその態度が気に入らねぇってなるんだろうな~って」 「そう!そうなんだよ!さすがあやりんはよくわかってるね~!」  急にテンションが上がった月雲が前のめりになってオレにハイタッチを求めて来たので、つられて軽くタッチをする。  言葉もそうだけど、由羅の場合普通に喋ってもなんだか威圧的というか、相手をバカにしているように見えるんだよな~。  余裕があって飄々としてて、何でもそつなく簡単にこなしてそうだし……そういう姿がちょっと……な~……  オレも最初はなんだこいつって思ったし……  今はもちろん、そんなに完璧人間ってわけじゃないこともわかってるし、イヤなやつじゃないこともわかってるけどさ。 「威圧的?飄々とした態度……?そんなつもりはないが……」  ちょっと不貞腐れてブツブツ言っている由羅を見て、オレはそっと苦笑した。 ***

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