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両手いっぱいの〇〇 第270話
「そんで?由羅はその怨霊を祓えたのか?」
「自分では祓えたと思っていたが……どうやらそうじゃなかったらしい」
由羅がオレから視線を逸らしてうなじをかいた。
「甘い甘い!素人のガキがあんなの祓えるわけねぇだろ。それでもまぁ……7割か8割くらいは祓えてたけどな」
月雲 がカラカラと笑った。
7割か8割ってほぼ祓えてるじゃねぇか……
普通はそれだけ祓っていれば弱体化して自然消滅するらしいが、由羅に憑いていたのは質の悪い霊 だったので少しでも残っていれば危険だからと残りは月雲が祓ったらしい。
「なぁ、でも由羅に憑いてたのは生きている人間からの怨念だから、いくら祓ってもキリがねぇってさっき言ってなかったか?」
「そだよ?つまり、すぐにまたでっかくなってやってくる。だから、霊力が0の状態だと危険なんだ」
そりゃまぁ……霊力がねぇとすぐに憑かれちまうよな~……
「そういうこと。まぁ、あの頃はちょうど反抗期のガキだったっつーのもあるけど、この性格だろ~?俺の話を全然聞かなくてねぇ……いくら霊力が強くても、使い方を知らねぇもんだからさ。結局このおバカな弟子は霊力がなくなってることに気付かなくて自分の生命力を削っちまって――……」
んん?
待て待て待て!!
「生命力って……どういうこと!?」
「そのまんまだよ。霊力がなくなっても力を使おうとして無意識に自分の命を削ってたんだ。だから倒れたんだよ。そもそも、普通はそんなすっからかんになるまで霊力を使ったりしねぇんだよ。自分の手におえねぇと思ったら一旦ひくか、助けを呼ぶもんだ。それをこいつはムキになってひとりで……」
「ハァアアッ!?由羅っ!お前何やって……ぅぶっ!?」
思わず怒鳴った瞬間、バシッと音がして一瞬目から火が出た。
……え、なに!?
オレは突然のことに何が起きたのか理解できず、両手で顔を押さえて呆然とした。
「ひふぁい ……」
「あっ!す、すまん綾乃!」
「あ~ぁ、ゆらりん何やってんだよ」
「~~~っ!!」
隣で動揺している由羅の様子から、由羅がオレの顔面を叩いたのだとわかった。
由ぅ~~羅ぁあああああ!?
涙目で鼻を押さえつつ由羅を睨みつける。
「すまない!でももう少し声を抑えてくれないと莉玖が……いや、あの……そうじゃなくて……綾乃?」
ほほぅ……オレが大きな声を出したせいだと……?
そうですねっ!デカい声出したら莉玖が起きちゃうよな!わぁ~ってるよ!今のはオレが悪いんだよっ!
でもだからって……そんなに強く顔を叩かなくてもいいだろぉ~!?
「綾乃、大丈夫か?見せてみろ。鼻血出てないか!?」
「~~~っ……ふぉへん 」
オレは痛みを堪えて声を絞り出すと、顔に触れようとする由羅の手を振り払って鼻を押さえたまま手洗い場に向かった。
「綾乃!?待っ……あ~~くそっ!ちょっと師匠、莉玖をお願いします!」
「は!?俺!?ちょ、こ、これどうすんだよ!?俺赤ん坊なんて抱っこしたことねぇぞ!?」
「ぅぶぅ~~~……」
「お!?起きるのか!?おい、ゆらりん!おチビが起きそうだぞ!?」
子どもに慣れていない月雲が、由羅から渡された莉玖を不器用な抱っこであやしつつその場でクルクルと回った。
「起こさないようにちゃんと抱っこしててください!くれぐれも落とさないでくださいよ!?」
「ええ~!?あ~よしよし、泣くなよ!?ねんねだぞ~!?頼むからねんねしてくれ~~!――」
***
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