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両手いっぱいの〇〇 第271話
『綾乃くん大丈夫~!?あらあら、鼻血出ちゃってる……んもぅ!兄さんってば、ひどいわ!何も叩かなくてもいいじゃないの!』
「あ~……これあふぉれのしぇ~らし 、ふぉれふらひ らいじょぶ……」
『綾乃くんは悪くないわよ!?あんな話聞いたら誰だってびっくりするじゃないの!あれは兄さんが悪いのよっ!』
「ははは……」
オレよりも憤慨している莉奈のおかげで、ちょっと冷静になることができた。
あ~それにしても鼻血出たの久々だ……
これ止まんねぇな~……ティッシュもねぇし……
由羅の家や杏里の家には洗面所にティッシュも置いてあるのでつい手ぶらで来てしまったが、ここの手洗い場には手を拭くための手拭いがかけられているだけだ。
そこら辺の棚でも探せば置いてあるのかもしれないが、他人の家を勝手に漁るのはさすがに気がひける。
まぁ、そのうち止まるだろ。
「綾乃!」
手と顔を洗い鼻をつまんで俯いたまま、真っ赤に染まった水をぼんやり眺めていると、由羅がティッシュを持って追いかけて来た。
おお、由羅ナイス!
「やっぱり鼻血出てるじゃないか!ほら、ティッシュ……」
「あ~ど~も、あじゃ~っしゅ」
鼻を押さえているので喋りにくい……ということにしておざなりにお礼を言ってティッシュの箱ごとひったくった。
だって……
ティッシュを持ってきてくれたのはありがたい。
由羅に叩かれたのも自業自得で仕方ないとは思う。
けど、めちゃくちゃ痛かったっ!!
オレもしょっちゅう由羅を叩くけど、オレはちゃんと加減してるぞ!?
自分が悪いのはわかっているので由羅に八つ当たりするのは筋違いだとわかっているが、それでもムカつく!
「綾乃、すまない!わざとじゃないんだ。綾乃の声が大きかったから口を押さえるつもりが手が滑って……決して叩くつもりはなかったんだが……その……大丈夫か?」
「らいじょ~ぶれしゅ……」
そりゃわざとじゃねぇだろうよ!もし、わざとだったらオレもお前の顔面に一発入れてるし!
っつーか、口を押さえるにしてもあれは勢いよすぎだけどな!?
「……りくは?」
大きなため息をついてティッシュを鼻に詰めつつチラッと由羅を見る。
「莉玖なら師匠に預けて来たから大丈夫だ」
あの師匠に?……それ大丈夫なのか?なんだか子どもに慣れてなさそうだったけど……
「莉奈、莉玖についていてやって……」
『はいは~い!』
莉奈はオレの言葉を聞き終える前にサッと消えていた。
由羅が来た時点で向こうに行くつもりだったのだろう。
「莉奈もここにいたのか?」
オレが急に莉奈に話しかけたので、由羅がキョロキョロと回りを見回した。
「まぁな。でも莉玖のところに行ったから今はいねぇよ……」
「そうか……綾乃、ちょっとこっち向け」
「今無理です」
「なぜだ?」
今そっち向いたら殴っちゃいそうだから。とか言えるかっ!!
「……鼻血出てるから上向けません」
「あぁ、上向かなくてもいいから、こっち向け」
「ぁんだよっ!?」
グイッと身体ごと由羅の方に向けられたのでちょっとキレ気味に視線を上げると、由羅がオレの頬をティッシュで拭った。
「血がついていたから拭いただけだ」
「……そりゃどうも」
別にそんなの……鼻血が止まればまた顔洗うし……
「綾乃、そんなに怒らないでくれ。本当に悪気はなかったんだ。叩くつもりなんてなかった。ただちょっと口を押さえるつもりで……」
「わ~かったってばっ!!オレが悪いんだよなっ!わかったからもういいっつーの!」
「おまえは悪くないだろう!?」
「いや、何言ってんの?オレがデカい声出したからだろ?今おまえがそう言ったじゃねぇか。たしかに莉玖が寝てるのにデカい声出したオレが悪かった。だから叩かれても仕方ない。はい、もう終わり!鼻血止まったら戻るから、先に戻ってろよ!」
「ちょっと待て!叩かれても仕方ないっていうのはどういうことだ?私は叩くつもりはなかったと言っているだろう!?口を軽く押さえようとしたらちょっと位置がずれて鼻に当たっただけだ!」
軽く?その軽くで鼻血が出たオレは一体……え、オレが弱いと言いたい?
ちょっとイラっとしたが、そもそもはオレのせいなので堪 えた。
オレすごい……頑張った……
っつーか、さっさと話を終わらせたいのに由羅がやけに食い下がって来る。
「だから、悪気はなかったんだろ?わかったってば!」
「わかってない!」
「わかったっつってんだろっ!?」
「じゃあ、なんで怒ってるんだ!?」
「由羅がしつこいからだよっ!」
「はいはい、そこまでっ!!」
言い合いをしているオレたちの隣に、いつの間にか月雲が立っていた。
月雲はオレたちの間に割り込んでくると、両手を広げてオレと由羅を引き離した。
「え、な、なんだよ!?」
「師匠!!莉玖についていてくださいと言ったでしょう!?」
「おチビならりなちゃんに託してきたから大丈夫だ。それより、おめぇらの声あっちまで丸聞こえだぞ!?おチビが起きるだろうがっ!」
「「あ゛……すみません……」」
言い合いをしているうちに、いつの間にかまた声がデカくなっていたらしい……
オレと由羅が項垂れていると月雲がやれやれと顔をしかめ、双方の額を指で弾いた。
「痛っ!?」
思った以上のデコピンの威力に、オレは軽くのけ反った。
もうっ!さっきから一体なんなんだよ!?
***
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