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両手いっぱいの〇〇 第272話
「まったく……言い合いする前にちゃんと説明しろ!あやりんが困惑してんじゃねぇか」
月雲 は大きなため息を吐くと由羅の頭を扇子でペチンと叩いた。
説明?何を?
「綾乃、言い訳でしかないが、ちょっと説明させてもらってもいいか?」
由羅がうなじを撫でつつ少し気まずそうな顔でオレを見た。
「え?な、なんだよ」
「さっき私は師匠と一緒に一斉浄化していただろう?」
「うん」
「あれをすると、一時的に霊力が不安定になるんだ」
「……はい?」
霊力が不安定?電力の供給が足りなくなるみたいな?
オレが由羅の説明に首を傾げると、「それだけじゃわからんだろう……」と、見かねた月雲が間に入った。
もう最初から月雲が説明してくれれば良かったんじゃねぇの?
「あ~、ちょっと補足するとな、一斉浄化の時に俺がゆらりんから霊力をわけてもらっただろう?あれでゆらりんの中の霊力に流れが出来ちまってるんだ。流れが出来るっていうのは、う~ん……ゆらりん本体を水が満タン溜まったダムとして……――で、しばらくは霊力がダダ洩れ状態になるんだよ」
つまり、霊力を水、由羅の身体をダムやため池のようなものと考えた場合、普段はダムの中に水が満タン入っているとして、月雲に水をわけるためにはゲートをあけなきゃいけない。
ダムのゲートをあけるとそこから水が流れ出て来るわけだが、水の勢いがすごいのでゲートを閉じるのに時間がかかるからその間はずっと水が流れ出している状態になってしまうと……
うん、まぁ、流れが出来るっつーのはなんとなくわかったけど、それとオレの鼻を叩いたのとどう関係してんだ?まったくわからん。
が、ひとまず話を最後まで聞こうと先を促した。
「でな?水が流れ出ているということは当然ダムの中の水にも流れが出来るだろ?今まで満タン溜まってたから動きがなかった水が急に動き始めるわけで……今のゆらりんは、子どもの頃の霊力をコントロール出来てなかった時と同じような状態、霊力が暴走している状態なんだ」
「……え~と……それで何でオレの鼻は殴られたんだ?」
「だから、殴ってはいない!!そうじゃなくて……霊力が暴走してるから力の加減が出来ない状態なんだ!」
「あ~わかったわかった。ちょっと由羅黙って!」
月雲に質問しているのに由羅が間に入って来るので、オレは由羅の口に軽く人さし指を当てた。
いいか、由羅。軽くっつーのはこういうのを言うんだぞ?
「よくわかんねぇんだけど、力が加減出来ないって言うのは霊力だけの問題じゃねぇの?」
そもそも霊力って……霊にだけ関係してるんじゃねぇのか?
「あぁ、それは――」
***
「――というわけだ。わかったか?」
「全然わかりません!」
「ありゃ?」
月雲が一応霊力について説明してくれたが、オレには半分以上意味がわからなかった。
「……え~と、まぁとりあえず……霊力が暴走してるせいで身体の方もうまく制御出来ねぇってことだよな?」
「ま、そういうことだ。あやりんは叩かれたんだから怒って当然だしゆらりんを許す必要もねぇんだが、ゆらりんがそんなに強く叩いちまったのには理由があるっつーことだけはわかってやってくれねぇかな?本当に悪気はねぇんだよ」
月雲はそう言ってちょっと申し訳なさそうに笑った。
「……別に怒ってねぇよ。そもそもはオレがデカい声出したせいだし。それより、由羅の霊力はいつ落ち着くんすか?そんな調子だと仕事や日常生活に支障が出て来るだろ?さっきはオレだったから良かったけど、莉玖や会社の人にまでその力加減の出来ない状態で何かケガとかさせちまったら……」
「あぁ、それなら……裏の湧き水を飲んだし、もうあと数時間すりゃぁ落ち着くから大丈夫だ」
「湧き水?」
「さっきゆらりんが酔い冷ましに飲みにいってただろ?」
「あぁ……え、あの水飲んだら霊力が落ち着くのか?」
「ここの湧き水は特別だからな」
そういえば、神聖な山の湧き水だとか言ってたっけ……
どれだけ続くのかと心配したが、意外にもすぐに落ち着くと聞いてホッとした。
よくわかんねぇけど、湧き水に霊力を落ち着かせたり清めたりするような力があるってことかなぁ?
「まぁ、そんな感じだ」
「そか……それならいいけど……」
「綾乃、明日になれば落ち着くはずだから……それまではあまり不用意に動かないように気を付ける」
そう言いつつ、背後から由羅の腕が伸びて来た。
おい、不用意な動きっていうのは勝手に背後から抱きついてくる今の状態を言うんじゃねぇのか?
とは思ったが、オレはそのまま由羅にもたれかかった。
だって、下手に動いてまた鼻血が出ると困るし!
「そういうことなら、とにかく由羅が莉玖にケガさせないようにしなきゃだよな~……」
念のために帰りはオレが抱っこした方がよさそうだな……
「あぁ、それに……綾乃にもケガさせないように気を付ける。……本当にすまない」
由羅が項垂れてオレの肩口に顔を埋めた。
ため息をついてその頭をポンポンと撫でる。
「はいはい。もういいってば。それより、さっきの話の続きだけど……」
オレは落ち込む由羅を適当に慰めつつ、月雲に向き直った。
***
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