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両手いっぱいの〇〇 第273話
「それより、さっきの話の続きだけど……」
「続き?」
月雲 がキョトンとした顔で首を傾げた。
「だから!由羅がその……生命力を削ってたってやつっ!!」
「あぁ、それか。うん、ゆらりんはゴリッゴリに削ってたよ?そんでボロボロになってたから介抱して俺の霊力をわけてやったってとこまで話したんだっけ?」
「そうっすね」
「綾乃、心配するな。別に生命力を削ったと言っても、すぐにしぬわけじゃない。寿命が多少縮む程度だ」
背中に抱きついたままの由羅が、オレの耳元でこの上なく真面目な声で戯言をぬかした。
「あ゛?」
オレはまた由羅の手が顔に当たらないようにしっかりと自分の腹に由羅の手を巻き付けて上から押さえこみつつ、声を抑えて怒鳴った。
「何が「寿命が多少縮む程度」だよ!!洗濯に失敗したセーターじゃねぇんだぞ!?そもそも縮ませんなっ!!」
「……セーターがなんだって?」
由羅がオレの肩に顎を乗せたまま首を傾げる。
器用だなお前……っつーか、身長差的にその体勢キツクねぇの?
あ、オレが手を押さえてるから動けねぇのか。
「え~と、ほら、セーターって洗濯すると縮んじゃうだろ?」
「そうなのか?」
「そうなんだよっ!」
なんでこの例えがわからねぇんだよ!?
あ~、そうか、由羅はあんまり家事したことねぇから……セーターを自分で洗ったことねぇのかな?ロウソクとか線香とかで例えた方が良かったのか!?いや、あれは“縮む”とは言わねぇか……う~ん……
「って、そこは別にどうでもいいんだっつーの!なんとなく話の流れとニュアンスでわかるだろ!?そっとスルーしろよっ!!」
「綾乃が突然セーターなどと言い始めるからだ。気になるだろう?」
「だから、縮むっつったらオレの中ではセーターが出て来たんだよっ!あ~もう!何の話だよこれ!?」
「……ブハッ!!……ぶひゃひゃひゃっ!!」
オレと由羅のやり取りを見ていた月雲が堪えきれなくて噴き出した。
「いや~、ほんとにあやりんは面白いねぇ~!」
「は?」
今オレ何か面白いこと言った?
月雲が何に笑っているのかはわからないが、たぶんどうでもいいことだろうから聞き返すのは諦めた。
***
「……そんで、由羅に霊力をわけたって話の続きは?もう終わりっすか?」
「ん?……あぁ、え~と……あ、そうそう。呑んでねぇのにゆらりんが酔っ払ってた原因も、そこにあんだよ」
「そこってどこだよ!?……っすか?」
あまりにもツッコミ所が多すぎてついつい月雲相手にも口調が荒くなってしまう。
だが、月雲自身は気にする様子もなく話を続けた。
「だからな?俺とゆらりんは……」
どうやら月雲によると……
由羅に霊力をわけたことで、月雲と由羅は霊力的な繋がりが出来ているのだとか。
普段はお互いに霊力のダムを閉じているし離れているので繋がりを感じることは少ないが、今はお互いにゲートを開けて流れが出来ているので余計に繋がりが強くなっているわけで、そのせいで月雲の酔いが由羅にも影響するらしい。
ちなみに、住職の酔いまで影響してしまうのは……
「住職が亡くなる前に、住職の霊力を俺にうつしたんだ。詳しい量はわからんが、まぁ……住職も自分が持っててももう仕方ないものだからっつってたからほとんど俺の中に入ってるはずだ。つまり、俺の霊力をわけたってことは、ゆらりんにも住職の霊力が流れ込んでるわけ。だから、住職の酔いが俺とゆらりんに影響するんだよ」
「へぇ~……」
んん?
「いや、住職って霊なのになんで酒が呑めるんだよ!?まずそこがおかしいだろ!?」
「あぁ、う~ん……それに関しては俺もよくわからん!住職はああ見えてかなり力のある高僧だったからな。そこらの霊とは格が違うってことじゃね?ただ、どういう構造なのか、物は持てるし酒も呑めるけど、住職が口にしたものは俺やゆらりんの中に入って来るんだよな~」
「だから厄介なんだ……」
大人しく話を聞いていた由羅がため息まじりに呟いた。
「住職は自分が酔わないからって遠慮なく呑むし、師匠も一緒になって呑むし……私も酒が弱い方ではないと思うがさすがに二人分のアルコール成分がこちらに流れて来ると無理だ。胃に直接酒を注がれているような状態だからな」
「うわぁ~……エグいな……」
由羅の話にオレが思わず顔をしかめると、月雲がハハハと笑った。
いやいや、笑い事じゃねぇだろ……
「それって気を付けねぇと急性アルコール中毒とかになっちまうんじゃねぇの!?」
「あ~、まぁ似たような状態にはなるかもな」
「おいおい……」
「今のところなったことはないがな。厄介なのは、通常の飲酒とは異なる特殊な状態だから、酒の抜き方も特殊でな。普通なら時間が経てば酒が抜けるが、この場合は裏の湧き水を飲んで清めないと抜けないんだ」
「あの~……ちなみに、その湧き水はどれくらい飲めばいいんだ?」
「……最低でも飲酒量の倍だな」
「水ってそんなに一気に飲めるか!?っつーか、水って飲み過ぎるとダメじゃなかったっけ……」
「飲めない。だから時間をかけて数回に分ける」
「時間をかけて?じゃあ、しばらくはまだ裏の水飲みに行くのか?」
「いや、もう大丈夫だ」
「んん?え、もしかしてさっきがぶ飲みしてきたのか?」
「いやいや、ちゃんと時間をかけて飲んだから大丈夫だ」
「へ?」
由羅は裏の湧き水をおよそ4時間程かけて飲んで来たらしい。
「え、待って?4時間……って計算おかしくねぇか?だって、オレが由羅の後を追いかけて裏に出た時点でまだ1時間も経ってなかったはずだし、裏に出てからお前が戻って来るまでオレそんなに長い時間待ってなかったぞ?」
「あぁ、だから裏は特殊な空間だと言っただろう?あの辺りは時空が歪んでるからな。時間の進み方も違うんだ」
「うへぇ~……」
特殊な空間だっていうのはわかってたけど、何となく感覚的にも変な感じがしたのはそういうことだったのか……
なるほど……うん、もうなんでもありってことだな!よし!
オレは深く考えるのをやめて由羅の腕を外すと、とりあえず鼻に詰めていたティッシュを取った。
***
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