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両手いっぱいの〇〇 第274話
オレの鼻血が止まったので、ひとまず部屋に戻ることにした。
莉奈 が何も言って来ないということは大丈夫なのだろうとは思ったが、今日の莉玖 には莉奈が視えていないようだし、住職のことも視えないだろうから莉玖にしてみればまた部屋の中にひとりぼっちだしな……
「……あれ?莉玖起きてる?」
中から莉玖の笑い声が聞こえてきたので、部屋の前でふと立ち止まり由羅と顔を見合わせた。
「り~く~!起きたのか~?……って、ええ!?どういうこと!?」
莉玖は住職と莉奈に遊んでもらって機嫌良く笑っていた。
「え、莉玖……ママが視えてんのか!?」
『あ、綾乃くんお帰り~!ほらほら、莉玖!みんな帰って来たよ~!』
莉奈がオレたちに向かって満面の笑みで手を振った。
それを見て莉玖も振り返り、オレたちに気付くとよいしょ!と立ち上がり、ニコニコしながらポテポテ歩いて来た。
「あ~の~!ぱっぱぁ~!」
「おはよう莉玖~!えっと……もしかしてママたちが視えるのか?」
「まん~~っまっ!」
莉玖の発音が完全にご飯の「まんま」と一緒だったが、莉奈を指差しながら言っているのでやはり視えているらしい。
「うん、ママと遊んでたのか~。良かったな!……って、何で急に視えるようになったんだ?だって、さっきは……」
視えてなかったのに……
『ふひゃひゃ!そりゃ~、わしがおるからのぅ』
住職が得意気に笑った。
「住職がいれば視えるんですか?」
「ん~、ちょ~っと違うな~。住職自体は最初からこの庵にいるからねぇ」
後から入って来た月雲が住職の隣に座りつつ、オレたちにも座れと手で合図をした。
「あ、そうか。じゃあ、なんで……?」
オレが莉玖を抱っこしたまま座って莉奈を見ると、莉奈が「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに話し始めた。
『それがね?莉玖が目を覚ましそうだったから綾乃くんを呼びに行こうとしたら……』
***
莉奈がオレを呼びに来ようとしたら住職が急に起き上がって莉奈の手を掴んだ。
『そんなに慌てんでも母親がいれば大丈夫じゃろ』
『でも……残念ながら莉玖には私は視えないんです。たまに視えることもあるけど、さっき確かめたら今日は視えないみたいで……だから綾乃くんたちに知らせなきゃ!』
『ほぅ?たまに視えるのかい?』
『はい!熱を出した時とか、今までに数回……私が笑いかけるとこっちを見て笑ってくれたり、話しかけると反応を返してくれたり、めちゃくちゃ可愛いんですよぉ~!……でも、綾乃くんや兄のようにいつでも視えるわけじゃないみたいで……』
『ふ~む……なるほどのぅ。それじゃちょっと手を出してごらん?』
『あの……ご住職?先ほどからずっと握ってますよ?』
『おおぅ!?そうじゃったの。よ~し、それでは……わしの霊力 を少し分けてあげようねぇ』
そう言って由羅に月雲がしたように、住職から霊力を分けてもらったらしい。
***
「え、霊同士なのにそんなことができんのか!?」
いや、むしろ霊同士だから出来るのか?でも住職の霊力は月雲に渡したって言ってなかったっけ?
『それがね?最初は視えなかったのよ。でもその後……』
住職が莉玖の目にそっと手を被せて何やら唱えると……
『目を覚ましてキョロキョロしていた莉玖が私を見てニコって笑ったのよ~!』
「ってことは、莉玖にも住職の霊力を分けたってことか?」
『分けたと言うか、引き出した感じじゃの。軽く視てみたんじゃが、この子もゆらりんやあやりん程ではないが生まれつき霊力を持っている。その霊力を少し表に引き出してやっただけじゃよ』
それって……莉奈以外の霊も視えるようになったってことか?
住職も視えてるんだからそういうことだよな?
う~ん……莉奈が視えるのはいいけど、莉玖にはこういう事とは無関係で育ってほしかったから複雑だなぁ……
オレがため息を吐いて莉玖を抱きしめる腕に少し力を込めると、月雲が扇子越しに莉玖の顔を覗き込んでニカッと笑った。
「あやりん、そんなに難しい顔すんなって。心配しなくてもおチビちゃんは元々持っている霊力が弱いから、まぁたぶん成長と共に霊力は薄まっていくはずだ。しばらくは変なもんが視えるだろうが、ゆらりんやあやりんが傍にいれば面倒な霊は寄ってこねぇだろうし……これくらいの霊力ならせいぜい小学校に上がる頃には視えなくなるんじゃねぇかなぁ」
『ええっ!?そうなの!?』
莉奈が目に見えて落胆した。
莉玖は成長するにつれて莉奈のことが視えなくなるかもしれないっていうのは前にも莉奈に話したことがあるけど、月雲にはっきりと「小学校に上がる頃には視えなくなるだろう」と詳しいタイムリミットを告げられたのがショックだったようだ。
だが、いつまでも落胆しているような莉奈ではない。
『じゃあ、今のうちにいっぱい触れ合っておかなきゃ!ねぇ、綾乃くん!今夜はここでお泊りしない?』
すぐに立ち直った莉奈は、パッと顔をあげるととんでもないことを言い出した。
「え?ここで?」
「こら、莉奈!?何を言って……」
『だって、私いまなら……いまなら莉玖を抱っこできるのよ!!』
「「え?」」
『ほら、見て!おいで、莉玖~!』
そう言うと莉奈はオレから莉玖を抱き取った。
「ええええええ!?」
オレは顎が外れる程口をあんぐりと開けて叫ぶと、隣にいる由羅の腕をひたすら叩いていた。
***
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