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両手いっぱいの〇〇 第275話
「綾乃!あ~や~の!!おい、メイ!!わかったからちょっと落ち着け!さすがに痛いぞ」
「……え?あ、ごめん!」
気が付くと由羅に手を摑まれていた。
無意識に由羅の腕を全力で叩いていたらしい。
「びっくりしたのはわかるが、なぜ私を叩くんだ……」
由羅がちょっと眉根を寄せて自分の腕を撫でた。
「あ……いや、叩いたっつーか……しゅみましぇん」
叩くつもりはなかったんだけどな……なんつーか、子どもがよくやる「みてみて~!」みたいな?
さっき顔叩かれたから無意識にその仕返しをしてた……なんてことはないと思う。たぶん!
「まあいいが……それより、どうする?」
「へ?何が?」
「だから、今夜は泊まって行くのか?」
「あぁ……まぁアレを見ちゃうと……帰るとは言えねぇよな……」
オレたちの目の前で我が子を抱っこした莉奈が嬉しそうにぷにぷにほっぺに頬ずりをしていた。
莉玖も久々に母親に抱っこされて嬉しそうだ。
そりゃそうだよな……
「莉奈が莉玖に触れられるのはいつまでなんすか?」
オレは莉奈に聞こえないようにそっと月雲にたずねた。
「ん?う~ん……住職がどの程度霊力を分けたのかわからんが、まぁ明日の朝くらいまでじゃねぇかな~……住職自身もそんなに霊力回復してねぇからな」
「霊力って回復するのか?」
「そりゃするさ。そうじゃなきゃ俺がゆらりんに霊力を分けたり、今回みたいにゆらりんから分けてもらったりって出来ねぇだろ?」
「それもそうか……」
回復力は霊力と同じように個体差があるらしい。
由羅は元々の霊力も強かったせいか回復力も強いのだとか。
「それなのに……今は霊が視えないからその強い霊力を使うこともしねぇ……マジで宝の持ち腐れ状態なんだよ」
月雲がオレの肩にもたれかかってきて大袈裟に嘆いた。
「そんなこと言われても、視えないものは仕方ないでしょう?それより、ちょっと離れてください」
「もうちょっと視えるように頑張れよぉ~~!」
由羅が視えなくなったのは、自身の霊力がすっからかんになって倒れた時。
月雲に助けられて、精神面と体力面を回復しつつ自身の霊力と月雲の霊力と住職の霊力をミックスして身体に馴染ませていったものの、元気になってからも視えるようにはならなかった。
由羅が視えなくなっても、怨霊はまた襲って来る。
視えなければ自衛も出来ない。
そこで、月雲が由羅の守護霊を強力なものに交代させたのだとか。
「守護霊ってそんな簡単に交代できんの?」
「いや、かなり大変。そもそもやり方どころかそんな方法があること自体マル秘ってやつだし、俺もゆらりんにしかしたことねぇし、よく成功したと自分でもびっくりした。うん、さすが俺!」
月雲が得意気にからからと笑いながら自画自賛した。
いやいや、サラッと言ったけどそれって、奥儀とか秘伝のなんちゃらとか言うやつってこと!?
「……マジっすか……」
月雲たちに会ってからはビックリすることばかりで、もうさすがに驚くことはないだろうと思っていたが、またしっかりと驚いてオレはめでたく思考が停止した。
なんなんだよもう!!オレの頭じゃついていけねぇ……なんか頭痛くなってきた……吐きそ……
「綾乃?大丈夫か?」
「大丈夫なわけねぇだろ!あ~もう!頭痛い!寝るっ!!莉奈~!莉玖は頼んだぞ~!何かあったら起こして」
『はーい!おやすみ~!』
「おやすみ!」
「え、ちょ、待て!寝るってここで寝るのか?」
「寝るっ!」
その場で座布団を枕にして横になったオレに由羅が慌てた。
「寝るなら布団に……って、本当に寝たのか!?おい、綾乃!?」
「あらら、あやりんはおねむか~?しゃーねぇな。ゆらりん、向こうの部屋に布団出してやれ」
「そうします……」
「あぁ、ゆらりん。あやりんはたぶん――……」
ん?オレがなんだって……?
***
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