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両手いっぱいの〇〇 第276話

「む~……?」  誰かが布団に潜り込んで来る気配がして目が覚めた。 「すまない、起こしたか?」  ほぼ真っ暗な室内で、オレの隣に横たわる黒い影が話しかけて来た。 「っ!?……ゆら?」  びっっっくりしたぁあああああ!!!もう少しで叫ぶところだったぞ、おい……   「頭痛はどうだ?」 「んぁ?ん゛~~……」  ずつ~……?  頭……  そういや頭が痛かったんだっけ……?  寝ぼけて思考がまとまらず唸っていると、由羅が頭を撫でてきた。  何となくいつもよりもぎこちなかったが、やっぱり由羅の手は気持ちいい…… 「(撫でてくれたら)ちょっとマシ……」 「そうか。綾乃、起きたならちょうどいい。これ飲んでおけ」 「ん~?」  頭から由羅の手が離れたので、仕方なくのそのそと起き上がる。  いや、それにしても暗すぎじゃねぇか?  寝起きだから暗く感じたのかと思ったけどこれは普通に暗いよな?  とはいえ……若干寝ぼけているので自分でもちゃんと起きているのかよくわからない。  ……オレまだ夢見てんのかな……?  目を擦りつつフラフラしていたオレを危なっかしく思ったのか、由羅がちょっとオレの肩を抱き寄せてグラスをオレの手に握らせてきた。 「自分で飲めるか?」 「飲めるけど……これなに?」  あれ?由羅って目いいな。なんでこの暗闇でオレが見えるんだ? 「裏の湧き水だ。これを飲んでおけば頭痛や吐き気がマシになるはずだと師匠が……」 「へ~……なんで?」 「師匠曰く、綾乃のその頭痛や吐き気は(ここ)にいるせいだろうと……」 「(ここ)?」 「そうだ。ここはちょっと特殊な空間だと言っただろう?異空間酔いと師匠は適当に名付けて言っていたが、慣れない異空間で霊力が何らかの影響を受けると車酔いのような状態になることがあるらしい。私はなったことがないのでわからないが……まぁ、裏の湧き水を飲んでおけば大丈夫らしいから一応飲んでみろ」 「へ~い……」  なんだかよくわかんねぇけど、マシになるというなら飲んでおこう……  晩飯でも湧き水を使ったから多少は飲んだはずだけど、それだけじゃダメだったってことか。  由羅がくれた湧き水は、料理を作る時に飲んだ水よりも更に甘く感じた。 「そういえば、莉玖たちは?」 「そっちにいるぞ?」 『こっちよ~』  莉奈の声がして、ぽわっと室内がほんのり明るくなった。  莉玖と莉奈はオレが寝かされていた布団から少し離れたところに布団を敷いて横になっていた。  莉玖は食後に少し眠っていたせいもあってか元気いっぱいで室内を動き回り、だいぶテンションが上がってはしゃいでいたようだが、つい先ほど莉奈に抱っこされてまた眠ったらしい。  うん、それよりも莉奈さん?  部屋を明るく出来るならもっと早くしてくれよ!  オレらの会話聞いてただろ!?  莉奈は恨めしそうに見るオレの視線を華麗にスルーして莉玖を眺めた。 『さっきまで全然眠る気配がなくて……今夜は私が一晩中付き合ってあげられるから別に眠らなくてもいいかって思ってたのよ。だって、せっかく久しぶりに触れられるし……でも意外と早く眠っちゃったわ。残念……』  莉奈がちょっと淋しそうに笑って、莉玖の頬をぷにぷにと押した。   『あ、そんなわけで莉玖は私がみてるから、綾乃くんたちは遠慮せずに眠ってね!』 「え?あ、うん。そうだな、頼むよ」 「莉奈、ちょっといいか?」  由羅が莉玖を起こさないよう声を潜めつつ、莉奈に話しかけた。  オレに霊力があって莉奈と会話できると知った後も、由羅は自分から莉奈に話しかけたことはなかったのに……一体どういう風の吹き回しですか!? 『……私の最期についてなら、覚えてないわよ?莉玖の本当の父親がどうしようもないクズだっていうことと、莉玖と私を調べてつけ回している人がいたのは確かだけど……』  莉奈が少し緊張気味に答えた。  そういえば以前「子どもの頃から莉奈に怯えられて泣かれていた……」って由羅が言ってたけど、今の莉奈の様子を見ると由羅の勘違いってわけじゃなさそうだな。 「あぁ……覚えていないというのは綾乃から聞いているから大丈夫だ。もちろん莉奈の最期にあいつらが関わっているのかは気になるところだが……とりあえず今のところ莉玖に気付いている様子はないし、もうこのまま何も怪しい動きがなければそっとしておいてもいいかなとも思っている」   『そうね、それがいいと思うわ。変に刺激したら逆に気づかれちゃうかもだし……』 「あの~……オレ部屋の外に出てようか?」  若干緊張感が漂う中、オレは恐る恐る手を挙げて二人の間に割って入った。 「なぜだ?」 『え、どうして?』  兄妹が揃ってオレを見る。  なんだかんだで気が合うんだな…… 「いや、その……兄妹っつーか、家族間での話だろ?……オレ(部外者)がいない方が話しやすいんじゃないかと……」 「そんなこと気にしなくてもいい。ここにいろ」 『そうよ、気にすることないじゃない。綾乃くんはもう家族同然だし!』 「あ……うん……えっと、それじゃ~……オレはおまえらが話してる間は莉玖についてるから」  何となく居心地が悪いから逃げたいだけだったのだが、二人からいていいと言われたのでひとまず莉奈と場所を交代して莉玖の布団に移動した。    たぶん莉玖にも関係してることだから、気にならないわけじゃないけど……なんか由羅家の内部は複雑そうだし……そもそも家政夫のオレがどこまで踏み込んでいいのかよくわかんねぇし……  オレは莉玖に添い寝をして、なるべく聞き耳を立てないように頭の中でひたすら思いつく限りの料理名を唱えていた。 ***

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