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両手いっぱいの〇〇 第277話

 庵に泊った翌日、オレたちは由羅の霊力の暴走が落ち着くのを待って昼頃に帰宅した。 「ただいま~!」  玄関を開けるとちょうど固定電話が鳴った。 「あれ?電話だ……固定は珍しいな。はいはい、今出るってば!ちょっと待って~……」 「綾乃、私が出るから靴は落ち着いて脱げ。転ぶぞ」 「え?あ、うん」  オレが靴を脱ぐのにもたついていると、後から入って来た由羅が莉玖を抱っこしたままさっさと靴を脱いで入って行った。  う~ん……由羅のってスリッポンとか言うやつだっけ……脱ぎやすそう……  オレは子どもたちと外遊びをする時に走りやすいように普段はスニーカーを履いている。  というか、アパートを追い出された時に古い靴とかは置いて来たから、今はこのスニーカーと由羅にプレゼントでもらったスエード靴とか言うやつしか持っていない。  スエードはなんか履き慣れないし汚すのが怖いから普段はスニーカーがいいんだよな~……  そうだ!紐じゃなくてにすればいいんじゃね!?今度のスニーカーで安くて運動しやすい靴探してみよう!   「――はい、由羅で……」 「響一(きょういち)!?今どこにいるのっ!?」 「姉さん?どこって……自宅(うち)の固定電話にかけてきているんですから自宅に決まってるでしょう?」 「あら、それもそうね。って、そうじゃなくて!昨日何度も電話したのよ!?綾乃ちゃんにも!それなのに二人とも携帯は繋がらないし、家にかけても出ないし……一体どこに行っていたの!?心配するじゃないの!」  荷物を持ってリビングに入ると、結構なお怒りモードの杏里の声が受話器から漏れて来た。  これは……とばっちりを食らう前に逃げるに限る!  オレはそ~っとその場を離れて、荷物を片付け始めた。 「……ですから、昨日は綾乃と莉玖を連れて花火に行っていたんです!……そうですね、花火の音が大きくて気が付かなかったのかもしれないですね。それで、何か用でも?……え?今からですか?それはいいですが……わかりました」  受話器を置くと、由羅がふぅ~っと大きく息を吐いた。 「杏里さん、何かあったのか?」 「あぁ、昨日電話をかけてきたらしいんだが、私も綾乃も出なかったから心配したらしい。で、何か渡すものがあるからもうしばらくしたら来ると……」 「へぇ~……え、オレも出なかったって?オレ電源切ってたっけ?っつーか、携帯どこに入れたっけ……」  そういえば、庵に行ったあたりから携帯をほとんど触っていなかった気がする。  時間は由羅の腕時計でわかるし、そもそも日頃から携帯は主に由羅と連絡を取り合うために持っているようなもので、由羅と一緒にいる時には携帯を見る必要がないんだよな……  慌てて鞄から携帯を探し出してみると、電源は入っていた。 「でも庵で携帯鳴らなかったよな?履歴も残ってねぇよ?」 「あぁ……庵にいたから通じなかったんだ」 「そうなのか?あ~異空間だから?……って、ちょっと待って!杏里さん今から来んの?やっべ!早く荷物片づけなきゃ!!洗濯機回してリビングに掃除機かけて、え~と……」 「掃除機か。わかった」 「え?」  オレが若干パニクりつつ莉玖のお出かけセットから着替えを出して洗濯機に放り込んでいると、由羅が掃除機を持ってきてリビングや廊下を掃除し始めた。  どうやら由羅も手伝ってくれるらしい。  莉玖のことは莉奈に任せて、とにかく二人で片づけや掃除、洗濯を済ませてひと段落着いたところで、杏里がやってきた。 ***

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