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両手いっぱいの〇〇 第278話

「みんな無事なのね!?ケガはしてないのね!?莉玖も元気?杏里おばさんにお顔よく見せてちょうだい?……あ~もう……良かったぁ~……二人揃って連絡取れないなんて初めてだったから何かあったのかと……花火に行くならそう言っておいてくれれば……」  物凄い形相でやってきた杏里は、出迎えたオレたちの顔を順に両手で挟んで撫でつつ早口でまくし立て、大きなため息とともに玄関にへたり込んだ。  どうやらかなり心配をかけてしまっていたらしい。  由羅はチラッとオレを見て気まずそうに顔をしかめると、「失礼します、お姉様」と杏里をお姫様抱っこで抱き上げリビングへと移動した。 「すみません、花火のことは姉さんに伝えたと思っていました」  杏里をソファーにおろすと、オレたちは杏里の前に正座をした。  別に予定を全て杏里に話す必要はないのだが、今回みたいに泊まりになるような時には一言連絡をしておくべきだった。  だって、莉玖の件では相手がいつどんな手を使って莉玖に危害を及ぼすかわからない。  普段は口に出さないけど、莉玖の件で常に神経を尖らせているのはオレたちだけじゃなくて杏里さんも同じなんだよな…… 「――先週私がお祭りの話をしたら、お祭りや花火には三人で行くつもりだって言ってたわよね。でも、どこの花火とは言ってなかったし、昨日行くっていうのは聞いてないわよ!」 「そうでしたか。すみません。てっきり日付も伝えたものと思い込んでいました……」 「まったく……まぁ、何もなかったのならいいのよ。どうせ響一のことだから、綾乃ちゃんと莉玖とお出かけ出来るのが嬉しくて浮かれていたんでしょ?」 「浮かれ……!?」  え、由羅が?いや、全然そんな感じじゃなかったけど……  むしろはしゃいでたのはオレだし…… 「私ももしかしたら花火に行ってるのかもとは思ったのよ。ただ、全然連絡が取れなかったからちょっと……心配になったのよ」 「そうですね、心配かけてすみません」 「杏里さん、すみません!」  殊勝に頭を下げる由羅の隣で、オレもペコリと頭を下げた。  オレも杏里さんに花火のことを全然話してなかったんだから、由羅だけのせいじゃねぇよな…… 「あぁ、綾乃ちゃんは謝らなくていいのよ。連絡しなかった響一が悪いんだから!ところで……二人ともなんで正座してるの?正座なんてしなくていいわよ。私は別に怒ってるわけじゃないし。ほら、椅子に座ってちょうだい!」  いや、嘘だ!怒ってるわけじゃないなら20分間も正座のまま放置しないと思います!!  まぁ、正座はオレたちが自主的にしたことだけどさ……  それはさておき、なんとか杏里のお怒りは鎮まったようだ。 *** 「それじゃオレはお茶を……~~~~っ!?」 「綾乃、大丈夫か?」 「だ……いじょぶ……じゃねぇ……」 「あらら、綾乃ちゃん足が痺れちゃったの?」 「ぅ~~~っ……」  立ち上がろうとしたオレは足が痺れてそのまま床に転げた。  ちなみに、由羅は全然平気な顔で立っていた……え、なんで足痺れねぇの? 「足揉んでやろうか?」 「いやっ!!ダイジョブデス!!」 「……」 「あ゛っ!?」  床に突っ伏して悶絶していると、不意に由羅がオレの足を掴んだ。  反射的にその手をペシッと振り払う。 「大丈夫だっつってんだろっ!?なんで触ってんだよ!?」  痺れてるってわかってんのに触るのはダメだろっ!! 「足が痺れるのは血流が……」 「御託はいいから今は触るなあああああっ!!」  足が痺れてる時に触られるといくらオレでも殺意が芽生えますわよっ!?マジで!! 「だから、血流をよくすれば早く治るんだと言っているだろう!?しばらく大人しくしていろ」 「何もしなくてもすぐに治るからとにかく今は触るなっつってんだよ!」 「それで、姉さんの用事ってなんですか?」 「おいいいいいっ!!オレを無視すんなっ!その手を離せってばっ!こら、由羅っ!」  由羅はオレの抵抗を完全にスルーしてオレの足を揉みつつ杏里に話しかけた。 「あぁ、そうだったわね。え~と、あら、ちょっとごめんなさいね、莉玖。私のバッグを返してもらってもいいかしら?」  オレたちのやり取りをニコニコして見ていた杏里は、自分の隣でバッグの持ち手をもぐもぐしていた莉玖に優しく話しかけた。 「あ~い!ど~じょ~!」 「ありがとう」  莉玖は涎だらけのバッグを気前よく杏里に渡すと、慎重にソファーから下りてオレの背中にドスンと乗って来た。 「ぐぇ!り~く~!?」 「あ~の~!ぱったぱった(ぱっかぱっか)!」 「莉玖~、これは別にお馬さんしてるんじゃないぞ~?綾乃はいま足が痛いんだよ~……」 「いちゃい?」 「そう、痛いの。パパが触るから余計に痛いんだよ~!莉玖~!パパに“めっ!”ってしてくれ~!綾乃はもうダメだぁ~……」  オレがそう言ってパタリと倒れたフリをすると、莉玖が慌てて背中からおりた。 「あ~の!?いちゃい?よちよち……とら(こら)~!ぱっぱ~!めっ!あ~の、いちゃいの!めっ!――」  莉玖はオレの頭をよしよしと撫でると、オレの足を揉んでいた由羅の手をペチペチと叩いてお説教を始めた。  ……が、すぐに由羅に捕まってしまい、なぜか莉玖も一緒にオレの足を揉み始めた。  大きい手とちっちゃい手で揉まれて、オレはもうなんだか……痺れってなんだっけ?どれが痺れの感覚だっけ?と若干混乱していた。    そんな中、杏里は涎でベタベタになっているバッグの中から何かを取り出した。 ***

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