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癒しのお憑かれ温泉旅行 第280話

 正面から見た外観があまりにも衝撃的だったので一体どんなボロ宿なんだと冷や冷やしたが、宿の中は案外普通だった。  そりゃまぁ、商店街の福引で特賞にするくらいなんだからそれなりにいいところのはず……とは思ってたよ?  でも、外観はオレが追い出されたボロアパートと張り合えるくらいの酷さだったんだもん!  別にオレはどんなボロいところでも平気だけど、由羅はそんなところで寝たことねぇだろうし、何より莉玖もいるからあんまりボロかったらさすがに宿泊はキャンセルして……  って、いろいろ心配しているオレを横目に、由羅は気にする様子もなく先に立って入って行った。   *** 「お~、結構広いな!ぅわっ!すげぇ!莉玖見てみろ!露天風呂もついてるぞ!あ、ミニキッチンもある!」    って、え?キッチン?何だここ、温泉宿ってこんなに設備ついてるもんなのか? 「あ~の!ちゃっぷちゃっぷ!しゅる!」 「うんうん、後で一緒に入ろうな!」  オレたちが案内された部屋は、母屋ではなく離れだった。  というか、この宿は基本的に客室がコテージのように独立しているらしい。  母屋の奥に広い庭があって、その庭に広さや内装の違う客室が数部屋あるようだ。  庭はキレイに整備されており、緑に囲まれた、それこそ本当にって感じだ。  離れも母屋と同じく古民家風の木造平屋の建物で、畳部屋だからベッドはないけど掃除は行き届いているし、トイレは温水洗浄便座だし、洗面所もあるし……なにこれ……ここって実は結構な高級旅館だったりする!?  なんで宿のである玄関側の外観もキレイにしないんだろう……あんな見た目じゃ見ただけで引き返しちゃう人もいるんじゃねぇの?  それとも、オレの目が悪いのか?あの外観も見る人が見ればあれが歴史を感じさせるなんたらかんたらとか……うん、わかんねぇ!! 「綾乃、ちょっと落ち着け。時間はたっぷりあるんだからひとまず座らないか?」 「ん~?あぁ、由羅は運転して疲れてるだろ。座って休んでていいぞ~……」 「おまえがチョロチョロしていたら落ち着けないから言ってるんだが?」 「え?うぷっ!?――」  正月の旅行でもそうだったが、今までちゃんとしたホテルや旅館などに泊る経験がなかったオレにとっては見るもの全てが新鮮で……某RPGのごとく莉玖と一緒に室内をウロウロして扉や引き出しを片っ端から開け閉めして中を確かめたり写真を撮りまくったりしていたのだが、由羅に捕獲されて強制的に座らされてしまった。  はい、落ち着きがなくてすみません…… 「みてみろ、莉玖だってもう座っているぞ?」  一緒にウロウロしていたはずの莉玖はいつの間にか座ってマグでお茶を飲んでいた。  え、オレひとりではしゃいでたってこと?うわ、恥ずっ!!   「あ、えっと、そうだ、お茶!お茶いれようか!これ飲んでいいんだよな!?……え、これってもしかして飲んだらその分あとで金取られたりする?」  素泊まりの安いホテルやネカフェでしか泊ったことがねぇから、こういう旅館とかの常識とかってよくわかんねぇけど、たしかこういうお茶とかお茶請けは食べていいはず……だよな?  不安になってチラッと由羅を見ると、由羅が小さく頷いた。 「こういうお茶やお茶請けは食べたり飲んだりして大丈夫だ。そうだな、ホテルによっては備え付けのミニバーが有料の場合も……」 「ミニバーってなんだ?」 「あぁ、まぁ簡単に言えば小型冷蔵庫のことだ。中にソフトドリンクや酒類が入っていることがあって、飲んだらあとで請求される場合もあるが、ここは空っぽなんだろう?」 「うん、何も入ってねぇぞ?」 「なら大丈夫だ。だいたい、もし後で請求されるとしてもたいした額じゃないからそんなに気にすることはないがな」  いや、そこは気にするからっ!!  セレブと一緒にすんなっ!  心の中で叫びつつ、由羅にお茶を渡した。 「え~と……あ、これって施設案内図かな」  お茶請けのせんべいをポリポリ食べつつ、机の上にあった施設案内図で場所を確認する。 「朝食はここに行けばいいんだな」  夕食は部屋まで運んでもらうことも出来ると言うのでお願いしたが、朝食と昼食は食堂で食べることになっている。   「お風呂は~……ここか、ちょっと離れてるな。こっちにも露天風呂があるのかな。なんか有名なお風呂があるって言ってたからそれがこっちかなぁ……あ、莉玖!もぐもぐごっくんしてからだぞ!いっぱいお口に入れるとオエってなるからな?」  莉玖が両手に赤ちゃん用のおせんべいを持って一気に口に押し込もうとしていたので、慌てて止める。 「やああの!!り~ちゅんのまんま!」  お菓子を取られると思ったのか莉玖が必死にお菓子を握りしめた手をブンブンと振り回した。 「うんうん、莉玖のおやつだよな。わかってるよ。誰も取らないからゆっくり食べていいんだよ。ほら、慌てなくていいからもぐもぐして!」 「んっ!」 「そうそう。もぐもぐっ!」 「綾乃、夕食までに時間があるから、ひと休みしたら大浴場の方に行ってみるか?」 「そうだな!部屋の露天風呂はいつでも入れるもんな!莉玖~、先に大きいお風呂行ってみようか!」 「あ~い!」 「そうと決まれば……タオルとか準備しなきゃだ!」  オレは由羅に莉玖を任せて大浴場に持っていくものを準備した。 ***    

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