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癒しのお憑かれ温泉旅行 第282話
月雲と一緒になったことには驚いたけど、それはさておき……っと、
「んじゃ、オレら先に出るから」
真面目な顔で当たり前のことを言い合っている師弟を置いて、オレは莉玖を連れて先に風呂から出た。
「え!?綾乃ちょっと待て!私も一緒に出る!」
「なんだ、もう出んのか?んじゃ俺も出ようかな。もうすぐ飯の時間だし」
「師匠はごゆっくり!綾乃!」
身体を拭いていると由羅も慌てて出て来た。
「いや、そんなに焦らなくても時間は大丈夫だぞ?莉玖がのぼせちゃうから先に出ただけだし」
「おまえとならともかく、師匠と二人っきりで風呂に入っても何も楽しくない」
「そういうもんか?」
なんだかんだ言ってもやっぱり月雲さんは師匠だから二人っきりは気まずいのかな?
「よっし、身体拭けたぞ~。莉玖、綾乃も身体拭くからおパンツは自分で穿いててくださ~い」
オレは先に莉玖の身体を拭いて紙パンツを渡した。
家では少しずつトイレトレーニングもしているが、旅行先ではなかなか難しいのでまだ紙パンツ頼みだ。
まぁ、こういうのは時と場合に合わせて、だよな~。
「おぱんちゅ!ぱっぱ、ど~じょ」
オレが身体を拭いていると、莉玖は自分の紙パンツを由羅に渡した。
穿かせて貰おうという算段らしい。
「ん?パパに穿けって?莉玖、嬉しいけどパパにはこのパンツはちょっと小さいかな……」
「あ~!おぱんちゅ、り~の!ぱっぱはめっ!おぱんちゅ、とう よ?」
「え、違うのか?」
由羅が紙パンツを穿こうとしたので莉玖が慌ててもぎ取って自分の股間に紙パンツを当てた。
「じゃあ、どうやって穿くのか教えてくれ」
「も~!」
仕方ねぇなぁ~という顔で、莉玖が渋々紙パンツに足を突っ込んだ。
どうやら由羅はオレがたまにやるやり方を真似しているらしい。
うん、まぁ由羅なりに頑張ってるな。でも……
「でちた!」
「お、上手に穿けたじゃないか。凄いな莉玖!」
「あい!ぱっぱ、ど~じょ!」
莉玖は紙パンツを穿いてよいしょっと立ち上がりどや顔で由羅に見せると、またペタンと座って穿いた時の倍の速さで紙パンツを脱ぎ由羅に渡した。
ははは、やっぱりな。
「ええ~!?せっかく穿けたのにどうして脱いじゃうんだ……」
成功したと思ったのにソッコー脱がれてしまったので由羅がガックリと項垂れた。
いや、どっちにしろ前後逆だったから脱がなきゃいけないけどな?
「由羅、ドンマイ」
「ぱっぱ、ど~ま!」
莉玖の前にしゃがみ込んでいる由羅の肩をポンと叩くと、莉玖も真似をして由羅の肩を叩いた。
「莉玖、そこら辺にしておかないとそろそろパパ泣いちゃうぞ?さてと、紙パンツ脱いじゃったからもう一回穿かないとな。綾乃に穿かせて欲しい人~!」
「あ~い!」
「じゃあ、今日は特別な!」
オレは苦笑しつつさっさと莉玖に服を着せた。
***
「綾乃」
「ん~?」
露天風呂からの帰り道、由羅に襟首をちょいと引っ張られた。
「なんで浴衣じゃないんだ?」
「へ?浴衣?」
オレはTシャツとジャージ姿の自分を見下ろした。
「あぁ、だってオレ浴衣とか着たことねぇから……」
「な~んだ、それなら俺が着付けしてやろうか?」
いつの間に追いついたのか、月雲が後ろから会話に入って来た。
「私が着付けするので大丈夫です!綾乃、部屋に戻ったら浴衣に着替えるぞ」
「え、いやオレは別に浴衣じゃなくても……」
Tシャツとジャージの方が慣れてるし動きやすいし……
「せっかく温泉に来たんだから浴衣も経験しておけ」
「それもそうか……」
たしかに、こういうところじゃないと浴衣なんて着る機会ねぇもんな……記念に着ておくか!
「ぶはははっ!素直に浴衣姿のあやりんが見たいって言えばい……ふがっ!」
「師匠~?うるさいですよ。他のお客の迷惑です!」
「んん~ !プハッ!図星だからって師匠の口を塞ぐな!ったく、どんな弟子だよ」
「こんな弟子ですよ。……で、師匠はどこまでついてくる気ですか?」
「ぁん?別についていってねぇよ?俺の部屋はここなんだよ!」
「……え?」
「……んん?」
月雲が指差したのは、オレたちの部屋の隣の部屋だった。
***
で、なぜか月雲の分の夕食もオレたちの部屋に用意されて、一緒に食べることになり……
莉奈が月雲に先日のお礼を言うと、酒を呑んで気をよくした月雲が「せっかくだから、ここにいる間だけでもおチビに触れられるようにしてやろうか?」と、前回住職がしたように莉奈に霊力をわけてくれたのだ。
効力は二日ほどらしいが、ここにいる間一緒に楽しめるだけでも嬉しい!と莉奈は大喜びだった。
莉奈と莉玖が嬉しそうなのはオレたちも嬉しい。が、大好きなママに触 れる時と触 れない時があること、幼い莉玖にとってそれがどう影響するのかわからない。
オレと由羅は何とも複雑な想いで二人を眺めていた。
***
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