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癒しのお憑かれ温泉旅行 第283話

「うん、これくらいなら大丈夫だと思うぞ~!」  オレはお湯から引き揚げた手を振りながら室内に向かって声をかけた。  夕食後、オレが食べ過ぎて寝転んでいると、『せっかくお部屋に露天風呂がついてるんだし、莉玖と二人でお風呂に入りたい!』と莉奈が言って来た。  だが、部屋にはオレたちがいる。  いくら霊だと言っても、さすがにオレたちがいる前で裸になるのは恥ずかしいということで、月雲の部屋の露天風呂に入りに来たのだ。  ちなみに、なんでオレもいるかと言うと……  莉奈は実体化していても温度を感じることは出来ない。  つまり、莉奈ではお湯の温度がわからないので、莉玖が入っても大丈夫な温度なのかを確認してほしいと頼まれて一緒についてきたわけだが…… 『綾乃くん、ありがと~!』 「どういたしま……って、うわっ!?ちょ、なんでもう裸なんだよっ!!」 『え?だってお風呂に入る時には脱ぐでしょ。一応タオルは巻いてるわよ?』  莉玖を抱っこして露天風呂にやってきた莉奈は、裸にバスタオルを巻いて、長い髪を上に結い上げていた。  女性の裸に免疫のないオレは慌てて顔を逸らした。 「オ、オレがいなくなってからでもいいだろっ!?」 『だって、早く莉玖と入りたくて~。ん?あらやだ、綾乃くんってば顔真っ赤じゃないの!ねぇねぇ、霊でも興奮しちゃう?』  霊とかそういう問題じゃねぇんだよぉおおおお!!  女性は女性だし、莉奈は今一応実体化してるし!!  っつーか、莉奈のやつオレがこうなるってわかっててやってるだろ!?  だってオレが童貞なの知ってるし…… 「んん゛!えっと、そんじゃオレもう行くから!」 『は~い!』 「莉玖、ママとお風呂楽しめよ!」 「あ~い!ちゃっぷちゃっぷしゅりゅ~!」  莉奈に抱っこされてご機嫌な莉玖に手を振ると、急いで部屋から逃げ出した。  あ~もう……女の人って怖い……   *** 「ただいま~っと……」  オレが部屋に戻ると、月雲と由羅は酒を呑みながら話込んでいた。  どうやら真面目な話らしく、月雲の顔も真剣だった。  あの人、真面目な話も出来るんだな……  二人は部屋に入って来たオレをチラッと見たものの、声のトーンを落としてそのまま話を続けていた。  月雲の部屋では莉奈たちが風呂に入ってるし、こっちじゃ話し込んでるし……ぶっちゃけオレだけ暇だな……  テレビつけると二人の邪魔になっちまうし、寝るにはまだ早いし……  あ、そうだ! 「なぁ、オレさっき入れなかった大浴場の方に行ってくる!」 「あぁ、気を付けてな。私も後から行く」 「へ~い」  オレは由羅たちに声をかけると、ひとりで大浴場に向かった。 「――さっきよりは空いてるな」  もう時間が遅いせいか、入っている人は少なかった。  寝る前にひとっ風呂浴びてから……という人ばかりだ。 「はぁ~~……ちょうどいいな……」  お湯の温度はオレ好みのちょっと熱めの温度で、泉質はよくわからないがなんとなく奥の露天風呂とは違う肌触りのように感じた。  さっき入ったところはなんだかとろっとした感じだったけど、こっちはすべすべって感じ?  イマイチわからないがなんとなく肌に良さそうだ。  それにしても、あの二人何をあんなに真剣に話し合ってたんだろ……  「だからそいつを祓うには……」とかチラッと聞こえて来たから霊についての話なんだろうけど……オレには関係ないって感じ?まぁ、そりゃオレはただ視えるだけでどうにもできねぇけどさ……でも少しくらいオレにも話してくれても……――   『入ってもいいですか?』 「あ~、どうぞ~」  湯に浸かってぼんやりと考え込んでいたオレは、誰かに話しかけられて無意識に返事をした。  ……ん?別に風呂は広いし場所も空いてるし、入るのにオレに断る必要なんて……って、今のはもしかして…… 「しまっ……――」 オレが覚えているのはそこまでで、意識がなくなる直前、頭の中で誰かの笑い声を聞いた気がした。 ***

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