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癒しのお憑かれ温泉旅行 第285話

「俺とゆらりん、抱かれるならどっちがいい?」  カレーとシチューどっちがいい?くらいのノリで聞いてきた月雲の言葉に、思わず渾身の“ハアッ!?”が出た。  そんなの…… 「どっちもイヤですけど!?」 「え?どっちもイヤ?」  オレの返答に月雲がちょっと眉を上げた。 「イヤですよ!オレ男っすよ!?もう!ふざけてないでさっさと祓ってくださいよ!!」 「だ~か~ら~、祓うために聞いてるんだって」 「……どゆこと?」 「だって、あやりんに憑いてるのは……いわゆる色情霊だし?」 「しきじょ~れい?」  ……って何?   「う~ん、あやりんにもわかるように簡単に言うと……性欲まみれの霊ってことだな。そいつに憑かれるとムラムラしてえっちがしたくなる。たとえば、本人の意思に関係なく誰かを襲ったり……」 「……なにそれ?」  ムラムラ?えっちがしたくなる? 「オレ別にそんな……ムラムラとかしてないっすよ?」  「今はあやりんが押さえてるからだよ。あやりんが身体から弾かれてる時にはそいつはゆらりんを襲ってただろ?」  さっきのはことか!! 「じゃあ、今のうちに祓って……」 「祓えねぇよ」 「え!?」 「外からじゃ無理。そいつ自体はそこまで強い霊じゃねぇけど、あやりんはそいつを中に入れただろ?霊力のあるあやりんが自分で招き入れちゃったから結構奥まで入っちゃってんだよ」 「え……?」    オレがこいつを入れた?……オレそんなことしてな…… 「あ゛……っ!」  そうだ……たしか露天風呂で誰かに「入ってもいいですか?」って聞かれて「どうぞ」って…… 「あの時かああああああああっ!!」 「覚えがあるみたいだな」  ……つまり、今の状況はオレのせいってことか!? 「とりあえずこいつに憑かれたのはオレの自業自得だったのはわかったけど、外からじゃ祓えないなら、どうすればいいんだ?……っすか?」 「繋がって直接霊力を注ぎ込むのが手っ取り早い」 「……繋がってって……由羅と月雲さんがしてたみたいに?」  オレは花火の日の二人の光景を思い出した。  由羅の霊力を月雲に分けるために、二人で手繋いだり額くっつけたりしてたっけ……  う~~~~ん……ま、まぁ……あれくらいなら…… 「ん?あぁ、アレね。アレは俺とゆらりんの霊力の相性がいいから出来るんだよ」 「じゃあ、オレは……?」 「だから、さっきから言ってるだろ?繋がらなきゃ無理」 「直接って……えっと……冗談……ってわけじゃなくて?」 「これは真面目に。悪いけど、さっさと決めねぇと時間ねぇぞ~?あやりんが押さえておけるのもそろそろ限界だろ?」 「んなこと言われても……」  たしかに、逃げようとする霊を押さえつけておくのはかなりキツイ。  ……あれ? 「なぁ、こいつオレの中にいるからダメなんだよな?外に出たら祓えるんじゃねぇの?今こいつ逃げようとしてるからそのまま外に逃げたところを祓えば……」 「いや、そいつはよ?」 「でも逃げようとしてるぞ?だからオレ必死に押さえ込んで……」 「そいつは一度あやりんの身体に完全に憑依してたせいで良くも悪くもあやりんと同化してるようなもんだからな。逃げようとしても、あやりんの身体からは出られない。押さえておけっつーのは、さっきみたいに身体を乗っ取られないようにしろって意味だ。試しに押さえるのやめてみな?」  そういう意味だったのかよ!?   「う゛~~~……乗っ取られるのはイヤだから頑張って押さえますっ!!」 「ははは、まぁそいつはちょっと特殊でね。身体(うつわ)に入ってる状態じゃないと確実に祓えないんだよねぇ。だからあやりんの中に入ってくれたのはある意味祓いやすい条件になってるわけで……」 「へぇ~……」  だからさっきちょうどいいって言ったのか……  オレにはよくわからないが、祓うと言っても霊の種類や状況によっていろいろとやり方が違うらしい。  で、結局こいつを祓うためには月雲か由羅か……どっちかに抱かれないとダメってこと……だよな?  ぅ゛あ゛~~~~~マジかよぉおおおおおお!!オレ女の子ともえっちしたことねぇのに!?  初めてでいきなり男とするとかハードル高すぎなんですけど!?  やり方とかわかんねぇしっ!!  キャパオーバーになったオレは頭を抱えて蹲った。   「師匠、ダメ元で外から祓ってみてくれませんか?」 「無駄打ちするよりさっさと抱きゃいいだけの話だろ?」 「ですから、それは綾乃がイヤだって言って……」 「ゆ、由羅がいい!!」 「……え?」  由羅が見かねて月雲に何やらお願いしてくれていたらしいが、オレの頭の中はそれどころじゃなくて……  パニクった挙句、もう何もかもどうでもよくなって半分自棄になっていた。 「ど、どうしてもどっちかを選ばなきゃダメなら……由羅がいい……」  まだ二回しか会ったことのない月雲に抱かれるくらいなら、由羅の方が…… 「綾乃、本気で言ってるのか?自分が言っている意味わかってるか?」  なぜか由羅は今にも倒れそうな顔でオレを見た。  本気もなにも、どっちか選べっつったのはおまえの師匠だぞ!? 「わかってるよ!でも、オレの自業自得だし、それしか方法がないなら仕方ねぇだろ!?」 「よっし、んじゃそういうことで!俺は自分の部屋にいるから、まぁ……頑張れよ!」 「え、ちょ、ちょっと!師匠っ!?」  月雲がパンっと一つ大きく手を叩くと、満面の笑みで由羅に何かが入った袋を渡し、肩をポンポンと叩いて出て行った。 ***

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