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癒しのお憑かれ温泉旅行 第286話
扉が閉まっても、由羅はしばらく茫然と扉を見つめていた。
あれ?月雲 さんにどっちか選べって言われたから由羅って言ったけど……もしかして由羅は……
「な、なあ、由羅?あの……オレやっぱり月雲さんに頼んでく……」
横をすり抜けようとしたオレは、由羅に肩を掴まれて引き戻されていた。
「師匠に抱かれる方がいいのか?私がいい、と言ったのは綾乃だぞ!?」
「そうだけど……だって、おまえはオレを抱くのイヤそうだから……」
「当たり前だ!イヤに決まっているだろう!?」
由羅が思いっきり顔をしかめて怒鳴った。
……イヤに決まってる?……そりゃそうだよな……
わかってるけど……ヤバい、オレなんか泣きそう……
「……ぁんだよっ!だから……由羅がイヤなら月雲さんに頼むって言って……」
「それはもっとイヤだ!!」
はあ~!?
「じゃあどうしろっつーんだよ!?そりゃ……由羅だって男なんか抱きたくねぇだろうけど……でも祓うにはそうするしかねぇんだろ!?それとも、オレにこのままでいろってか!?」
「綾乃を抱きたくないとは言ってない!!」
「たった今イヤだっつったじゃねぇかよ!?」
「そうじゃなくて……っ」
由羅はちょっと言葉を詰まらせると、額を軽く押さえて長いため息を吐いた。
「すまない、言葉が足りなかった。綾乃、泣くな」
「……ぃてねぇしっ……」
「以前から言っているが……私は綾乃が本当に好きなんだ」
ちょっと湿ったオレの頬をそっと指で撫でながら由羅がひとりごとのように呟いた。
「え?あ、うん……」
「愛している」
「ヒャヘッ!?」
思いがけない告白に、自分でもどこから出したのかわからない変な声が出た。
そりゃもう涙も止まるわっ!!
「生まれて初めて心から愛していると想える相手をようやく抱けるというのに……」
え、心から愛……ってオレのこと?ヤバい、ちょっと顔がニヤケ……
「それなのに……何が悲しくて霊 憑きで抱かなきゃならんのだっ!?……今まで私がどれだけ我慢して……ちゃんとおまえに好きだと信じてもらえるまで待って、おまえがその気になるまで待って、ゆっくり手順を踏んでっていろいろと計画を立てていたというのにっ!!……なんでよりにもよって色情霊なんかに憑かれてるんだ!この馬鹿がっ!!」
由羅は途中から段々と声が荒くなって、最終的に……キレた。
え~~~~……バカって言われた……そりゃバカなのは認めるけど……
「そんなこと言われても、オレだって好きで憑かれたわけじゃねぇし!だいたい、オレなんて童貞なんだからな!?人生初えっちでギャラリーにみられながら男に抱かれるオレの身にもなってみろ!!」
「まぁ……ギャラリーがいなくても童貞で男 に抱かれるのは変わらないがな」
「やかましいわっ!!あ~もう!んで、どうすんだよ!?」
「……おまえは本当にいいんだな?」
「いいもなにも、仕方ねぇだろっ!……ところで……その……男同士ってどうやんの?」
オレの質問に、由羅が一瞬「そこから説明が必要なのか?」という顔で固まった。
なんだよ……だってオレ男同士のやり方なんて知らねぇし……普通のえっちも知らねぇけど……
っていうか、由羅も別に元々男が好きだったわけじゃなさそうだし、もしかして由羅も知らねぇんじゃ……
「穴に突っ込むのは男も女も同じだ」
「なるほど。え、でも男って穴なんてあったっけ?」
「ここにあるだろう?」
由羅がオレの尻をスルッと撫でた。
「ヒャッ!?……え、あの……待って?由羅さん……そこって入れるところじゃなくて出すところ……」
「普通はそうだな」
「そんなとこに入れて大丈夫なのか!?」
『だ~いじょうぶよ~!ちゃんと洗浄して十分に慣らしてぇ~、やさしぃ~~く突っ込んでいけば……』
オレの中から出られないと知って観念したのか大人しくなっていた霊が、急に元気になってオレを押しのけ前に出てきた。
「おい、下がれよ!勝手に出て来るな!」
『けちぃ~!』
「ケチじゃねぇし!オレの身体だっ!」
霊のブーイングをあしらいつつもう一度奥の方に押さえこんだ。
「……えっと……洗浄って……洗えばいいのか?」
風呂で身体は洗ったけど……
『大丈夫よ~ん。この身体 は先に準備を済ませてあるから~。もういつでもOKよ~ん。ほら、そこのイケメンにぶっといのぶち込んでもらいなすわぁ~~い!』
なに勝手にオレの身体を準備OKにしてくれてやがんだこの野郎……
「と、とりあえず……準備は出来てるらしい……です……」
「そうみたいだな」
「あれ?由羅こいつ視えるのか?」
「いや……私はさっき襲われた時に聞いた」
え……この霊、由羅を襲いながら「準備万端です!」って自己申告してたのかよ……
「それじゃ、とりあえず布団に行くか」
由羅が少し表情をやわらげて、オレに手を差し出してくる。
「え?あ……うん……」
オレは由羅に手を引かれて布団に移動した。
布団まではすぐそこなのに、そのたった数歩がめちゃくちゃ長く感じた。
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