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癒しのお憑かれ温泉旅行 第288話
「あああの、由羅!?ちょちょちょっと待ってっ!!オレまだ……」
心の準備がぁああああっっ!!
「シィ~……わかってるからちょっと黙ってろ」
わかってるってなにが!?なにを!?なんで!?
由羅はパニクって逃げようともがくオレをがっちりと抱きしめて、莉玖をあやすようにトントンと背中を撫でてきた。
「ななななに!?なんで急に……」
「ちゃんと「抱きしめるぞ」って断りは入れたぞ?」
「そそそうだけど……」
「綾乃、まだ何もしない。抱きしめているだけだから落ち着け」
まだってなんだよぉおお!?
抱きしめているだけと言われても落ち着けるかああああああああっ!!
と思ったが、浴衣越しに感じる由羅の温もりと背中を撫でる手が気持ち良くて、不覚にも数分後にはすっかり落ち着いてしまった。
「ちょっとは落ち着いたか?」
「……まぁな」
ちょっとどころか……まったりし過ぎてウトウトしてましたっ!
慌てて離れようとしたが由羅にがっちりとホールドされたままだったので、また由羅にもたれかかった。
「それで……綾乃、どうする?」
「へ?」
「綾乃はどうしたい?」
どうしたいって?なにを?
「急に抱かれろと言われて戸惑うのはわかる。私だって戸惑っているからな。だが、そのまま放置しておくわけにもいかないだろう?憑依する霊は元々面倒で質が悪いのが多い。そいつだって綾乃がちょっと気を緩めるとすぐに身体を乗っ取ってくるような霊 だ。それに、私にだけならいいが、私が一緒にいられない時に他の男を襲うようなことがないとも言えない……」
「うげっ……マジかよ……」
でもたしかにさっきオレがちょっとぼんやり考え事をしてる間に身体乗っ取られてたし……
もし昼間莉玖とふたりっきりの時にそんなことになって、キャサリンさんが莉玖を置いてふらふら外に出てそこらの男に襲い掛かるようなことがあったら……その間に莉玖に何かあったら大変だっ!!
「いや、莉玖のこともだが、頼むからそこは自分の身も危険に晒されていることに気付いてくれ……」
「え?オレ?」
「どこの誰かもわからない男に抱かれるということだぞ!?危険すぎるだろう!?」
「あ……はい……」
危険ってオレが?
「綾乃、その顔はわかってないな?」
「え?いやそんなことは~……」
思わず由羅から目線を逸らす。
すみません!よくわかりません!
「……まぁいい。とにかく、祓うなら温泉 にいる間にしないと……」
「わ、わかってるってばっ!だから、オレが由羅に……抱……かれればいいんだろっ!?」
「そうだ。だが綾乃がどうしてもイヤならもういっそ色情霊に代わっ……」
「イヤじゃねぇよ!!イヤじゃねぇけど……っ」
由羅の言葉を遮ったものの、自分でも何が言いたいのかわからず言葉に詰まった。
由羅のことは好きだ。ただ……由羅とこういうことをするなんて想像もしてなくて……いや、ちょっとは考えたけど、でも自分が本当に由羅と……っていうのは完全に未知の世界過ぎて全然想像がつかなくて……だから……
「もういいからさっさとヤってくれよ!だってオレわかんねぇんだもん!!全部由羅に任せるから、その……オネガイシマス……」
せっかくの旅行なのに由羅にこんなことを頼んでいる自分が情けなくなってきて、最後の方はもうほとんど声にならなかった。
由羅は前髪をクシャっと搔き乱しつつ長いため息を吐くと、気まずくて俯いていたオレの頭をポンポンと撫でた。
「……わかった。じゃあ、綾乃の望み通りにさっさと済ませるぞ。綾乃は余計なことを考えるな。怖かったら私だけ見ていろ。いいな?」
「は……い!?……っ!」
由羅が腕を緩めたと思った瞬間、オレは額を軽く押されて後ろに倒れていた。
「おい!急に押すなよ!ビックリするだ……ろ?」
オレが文句を言いながら頭を起こした時には、すでに由羅に組み敷かれていた。
「え、あの……由羅?……っ!」
オレはその時初めて、由羅はオレなんかいつでも無理やりヤろうと思えば出来たのだと気付いた。
そりゃそうか。考えてみればキャサリンさんが襲い掛かった時もいつの間にか形勢逆転してたし……由羅はオレを押さえつけるのなんて簡単なんだよな……
でも、オレがこういうことに慣れてないから、ずっと落ち着くまで待ってくれていたのか……
圧倒的な体躯の差に為す術もなく固まるオレに、由羅の顔が近付いてきた。
「――」
「……ぇ?……んっ」
由羅は口唇が触れる瞬間小声で何か呟き、そのままオレにキスをした。
***
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