291 / 358

癒しのお憑かれ温泉旅行 第290話

「……ぁれ?……」  心地良い風に頬を撫でられて目が覚めた。  なんだ夢か……やけに生々しい夢だったな……  オレがオカマさんのしきじょ~れいに取り憑かれて由羅とえっちするとか……まぁ、ありえねぇよな~そんなこと。ハハハ!……オレ欲求不満なのかな……  それにしても、なんか身体が痛い…… 「……綾乃?目が覚めたか?身体はどうだ?」  起き上がるのが辛くて唸りながらゴロンと寝返りを打つと、広縁で本を読んでいた由羅が枕元にきてオレの頭を撫でた。 「……からだ?」  オレは目を擦りつつ寝惚け眼で由羅を見た。   「あれ……ここどこだ?」  見慣れない部屋に一瞬戸惑う。   「まだ寝ぼけてるのか。私と莉玖と三人で温泉旅行に来たことは覚えているか?」  温泉旅行…… 「あぁ、そうか。そうだったな……」  そもそも広縁がある時点で旅館だよな。  あ、だから浴衣着てんのか。  あれ? 「莉玖は?」 「莉玖なら隣の部屋だ。莉奈と一緒に遊んでいる」 「なんで隣の部屋?」 「ここにいると莉玖が綾乃を無理やり起こそうとするからな。隣では師匠もまだ寝ているようだが、師匠にはあまり近寄らないから……」  ……そういえば、昨日月雲(つくも)さんに偶然会ったんだったな……  あれ?じゃあ、あの夢は…… 「……」 「綾乃、どうした?」 「えっと……由羅さん?」 「なんだ?」 「つかぬことをお聞きしますが……その……昨夜は……お……お楽しみでしたかっ!?」  オレ何聞いてんのっ!?   「……別に楽しくはなかったな。どちらかと言えば不愉快……」 「……え?あ、そ……そうなのか……」 「いや、不本意と言うべきか」  それってどういうこと!?  う~ん……やっぱりあれはオレの夢……か? 「綾乃にだいぶ無理をさせてしまったからな」 「……ん?」 「できるだけ負担がかからないようにしたつもりだが……結局無体を強いることになってしまっただろう?」 「あの……由羅さん?一体何の話を……」 「だから、昨夜の……綾乃を抱いた時の話だが……?」  夢じゃなかったああああああああっ!! 「なんだ、夢だと思っていたのか?」  由羅が呆れ顔でため息を吐いた。 「待って……じゃあ……もももしかしてオレの尻に……あの、なにかツッコミマシタカ……?」 「あぁ、私のを突っ込んだ」  あ~、はいはい、由羅のユラさんをね……  ……マジかああああああああああああああっっ!!    オレは思わず布団を頭から被った。 「残念ながらマジだ。挿れないと祓えないからな。それで、尻は大丈夫か?出血はなかったから切れてはないと思うが……」 「夢じゃなかったって聞いた途端、痛くなってきた……」  この全身の痛みも、尻の痛みも、原因はそれですか…… 「薬塗るか?」 「ぅ゛~~、あとでいい……」 ***  そうだ。昨夜のが夢じゃなかったとすれば、先に気になることを聞いておかねばっ!! 「なぁ、それじゃあ、え~と……あの、キャサリンさんは?」 「それなら……」  オレに入っていた色情霊のキャサリンさんは、由羅が一旦オレの身体から外に引きずり出して、後は月雲が除霊をしたらしい。   「え、外に出せたのか?っていうか、由羅は視えないんじゃねぇの?」 「普段は視えないが、霊力の繋がりがある人間と霊力を繋げれば視えるようになるんだ。住職も視えていただろう?」  あぁ、住職の霊力が由羅にも少し入ってるって言ってたっけ? 「でも、オレとは?」 「綾乃とも一応繋がりはあるからな……」  月雲さんが霊力を込めているあのブレスレットを身につけていたこと。  庵の裏の湧き水を使った料理を一緒に食べたこと。  それらのおかげで、オレにも由羅や月雲さんと繋がりが出来ていたらしい。 「だから、身体を繋げば綾乃の中に入り込んでいた霊も視ることが出来る」  うん、なんでそこで身体を繋げば……ってなるのかがよくわかんねぇけど、とりあえずオレに突っ込んだら由羅にもキャサリンさんが視えたから引きずり出せたんだな!  オレは深く考えるのを止めて無理やり納得した。 「でもさぁ、月雲さんが色情霊は外に出たらすぐに逃げちゃうって言ってなかったか?」 「だから、綾乃を抱きながらこっそり結界を張っていたんだ」 「いつの間に……」 「師匠が隣の部屋で待機しながら、隣とこの二部屋に結界を張ってくれていたんだ。この広さになると結界を張るのに少し時間がかかる。私は綾乃の中の色情霊に気付かれないように先に私と綾乃の周りにだけ薄く結界を張っておいて、完全に師匠の結界の内側に入ったところで私が張っていた結界を解いたというわけだ」  月雲さんって一応すげぇんだな~……って、んん? 「由羅も結界とか出来んのか!?」  ビックリして思わずガバッと布団を捲って由羅を見た。 「まぁ一応な。師匠ほどの強い結界は無理だが……師匠に霊力の制御の仕方を教えてもらっている時についでに教えてもらった」 「そかぁ……あ!じゃあもしかして、昨日……時々オレに聞こえないくらいの声でブツブツ言ってたのって……」  あれは結界を張る呪文みたいなのを唱えてたってことか! 「あぁ、だ」 「すげぇな~!」 「今思えば、師匠が熱心に教えてくれたのは(のち)にこうやって自分の仕事の手伝いをさせるつもりだったのかもしれないが……今の私は霊力はあっても視えないからな。結局、師匠の期待には応えられなかったな」  由羅がほんの少し寂しそうに笑った。 *** 「ところで綾乃、お腹は空いてないか?朝食のことなんだが……」  グゥ~~~…… 「……あ゛……」  朝食と聞いた途端、オレのお腹が返事をした。  恥っずっっっ!!!! 「良かった。食欲はありそうだな!」  由羅が笑いを噛み殺しながらオレの頭を撫でた。 「もう朝食の時間は過ぎてしまっているが、起きられそうなら……」 「おおおお起きますっ!!……イ゛ッッッ!!!???」  照れ隠しに勢いよく起き上がろうとしたオレは、あまりの激痛に声もなく布団に崩れ落ちた。  なんだ今の!?  腰!?股関節!?脇腹!?内腿!?なんか今まで経験したことのねぇ場所が筋肉痛になってる気がするぞ!?  もう一度起き上がろうとしてみるが、四つん這いの状態から動くことが出来なくなった。 「綾乃、どうした?やはり尻か!?尻が痛むのか?薬塗るか!?」  由羅がやけに尻を心配してくれるのだが、もう正直尻の痛みなんてどうでもよくなるくらいに……全身が…… 「……い゛だい゛……」  オレが涙目で呟くと、 「わかった、任せろ!」 「なに……がっ!?」  由羅は何を思ったのか、四つん這いになっていたオレの浴衣の裾を勢いよく捲し上げ、更に下着を脱がせようとしてきた。 「なななにしてんの!?ちょ、やめっ!?」 「心配しなくても薬を塗るだけだ。痛むんだろう?大丈夫だ、私に任せろ!」  なんでそんなにやる気満々なんだよおおおお!? 「いや、あの、痛いのはそこだけじゃないから!!むしろそこより全身の筋肉痛がひどいっつーか……とにかく!パンツを脱がせようとすんなぁあああああああっ!!――」  オレは痛みも忘れて起き上がると、由羅から薬をふんだくってトイレに駆け込んだ。 「い……ててっ……」  あ~もう……何が悲しくてせっかくの温泉旅行の朝にトイレでこんなことしてんだ……  オレはいろんな意味で情けなくなって、長い長いため息を吐いたのだった……   ***

ともだちにシェアしよう!