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癒しのお憑かれ温泉旅行 第291話
結局、身体が痛すぎて自分ではうまく薬が塗れず、途方に暮れて半泣き状態でうずくまっていたオレは、様子を見に来た由羅に回収されて、問答無用で尻に薬を塗られ、謎のお膝抱っこで朝飯代わりのおにぎりを食わされ、全身をマッサージされつつ昼過ぎまで爆睡したのだった。
……あれ?
――いや、おかしいだろっ!?
オレは思わず自分にツッコミつつ目を覚ました。
なんでオレが由羅に世話焼いてもらってんの!?
「綾乃、大丈夫か?ちょっとうなされていたようだが……」
「……え?ぅおっ!?」
目を開けると目の前に由羅の顔があったので思わず顔を逸らした。
オレがうなされていたので、由羅が心配して覗き込んでいたらしい。
「どうした?怖い夢でも見たのか?」
「え?あ、いや……ナンデモナイ」
「……まぁいい。それで、身体はどうだ?少しはマシになったか?」
「身体?あ~、うん、さっきよりはマシ……だと思う」
由羅のマッサージが効いたのか、さっきよりはだいぶ身体の痛みがマシになっていた。
尻の違和感はまだあるけど……
「あ~~の~!おたよ~!」
布団の中で大きく伸びをしていると、お腹の辺りにポテンと莉玖が倒れ込んで来た。
「あれ、莉玖ぅ~!おはよ~!どした?いつこっちに来たんだ?」
上半身を起こして莉玖をぎゅっと抱きしめ頭に頬をグリグリと押し付ける。
はあ~~も~~癒しぃいいいいいいい!!
「きゃははは!あ~の~!もったい 、ぎゅ~ちて~!」
「ぎゅぅうううう~~~!!」
『ふふ、私たちは今来たのよ。もうすぐお昼ご飯だからね~。綾乃くんもちょうどいい時間に起きたわね!』
オレと莉玖の様子を見ながら莉奈が笑った。
いくら実体化していると言っても莉奈は幽霊なのでご飯を食べることはできないため、食堂に行っている間は莉奈は部屋でお留守番なのだ。
朝食も食堂だったので、由羅たちが食べに行っている間、莉奈はオレについていてくれたらしい。
「お~、莉奈もおはよ~」
『おはよう!大丈夫?昨夜はその……いろいろと大変だったみたいね』
莉奈が心配そうに、でも若干笑いを堪えている顔でチラチラとオレの尻に目線を送ってきた。
そりゃまぁ……隣の部屋で月雲さんが結界を張ってたっていうし、莉玖と一緒に隣の部屋で寝ていた莉奈も、オレと由羅に何があったのかは知ってて当たり前だよな……
「あ~……ハハハ……」
オレがひとまず苦笑いで誤魔化していると、月雲が入って来た。
月雲もさっき起きたらしい。
「おっまたせ~。りなちゃんが起こしてくれたから昼飯には間に合ったぜ~。お、あやりんも起きたのか。おっはよ~」
「あ、おはようございます」
「昨夜はお疲れ~。身体大丈夫か~?かなりキツかったろ?」
「……ハハハ……おつかれさまです……」
そりゃね?状況が状況だけに、オレと由羅がヤったのはみんなが知ってるにしても……続けざまに聞かれると気まずいいいいいい!!
もうオレの尻はそっとしておいてほしい……
『月雲さんってば、私はちゃんと朝食の時も何度も起こしたわよ?』
「お?そうだったのか、そいつぁわるいことしたな。ありがとね~。りなちゃんは優しいねぇ~」
『褒めても何も出ないわよ。……それにしても、せめてもうちょっと身だしなみを整えられなかったの?無精髭もそのままだし、せっかく見た目はいいのにもったいない……』
莉奈が月雲をみてちょっと顔をしかめた。
月雲は、眠そうな目、ボサボサの髪、乱れた浴衣……超寝起き感満載のくせして、なまじ顔がいいからかアンニュイな雰囲気が逆に色気を醸し出していた。
同じく寝起きでも、目は腫れて顔は浮腫んで、ただでさえ悪い目つきが更に悪くなっている不細工なオレとは雲泥の差があるな……
「ん~?ダメか?顔は洗って来たぞ?」
『ダメというわけではないけど、私はあまり隣に並びたいとは思わないわね』
「りなちゃん厳しいな~――」
莉奈と月雲さん、いつの間にそんなに仲良しになったんだ……
オレがやけに仲の良い二人の様子にちょっと目を丸くしていると、由羅がオレに手を差し出してきた。
「綾乃、食堂まで歩けそうか?」
「え?あぁ、たぶんもう大丈夫だと思うけど……莉玖、ちょっとごめんな」
オレは莉玖を膝から下ろして、由羅の手に摑まりつつ慎重に立ち上がった。
「うん!大丈夫だ!よゆ~!よゆ~!」
「それは……大丈夫だと言えるのか?まだちょっと心もとないぞ?」
立ち上がった時にちょっとふらついたのを見て、由羅が眉をひそめた。
「だ、大丈夫だって!これくらい気合いで何とかする!……でも莉玖を抱っこするのは怖いから、由羅抱っこして……?」
「……わかった。それじゃ行くか」
「うん……?って、なんでオレを抱っこしてるんだよ!!」
オレが由羅から手を離そうとした瞬間、なぜか由羅はオレをそのままお姫様抱っこで抱き上げた。
「綾乃が抱っこしてって言っただろう?」
「莉玖を抱っこしてって意味だよっ!!」
「あぁ、それなら大丈夫だ。師匠、莉玖を」
「お~、ほらおチビちゃんおいで~!おじちゃんが抱っこしてやろうな~」
莉玖は由羅に抱っこされているオレを不思議そうに眺めていたが、月雲に抱っこされると、
「あ~の!いっと ね~!」
と、喜んだ。
そうだな、一緒だな~!って、ダメじゃんっ!?
「ちょ、由羅!とりあえず下ろせって!」
「なぜだ?」
「恥ずかしいからだよっっ!!」
「別に食堂と言っても私たちは個室にしてくれているから他人に見られることはないぞ?」
「そう言う問題じゃない!!いい歳して筋肉痛で動けないから抱っこしてもらうとかダサすぎるだろっ!?」
「そうかそうか」
由羅はオレの言葉を軽く流して、オレを抱っこしたまま部屋から出た。
「おいいいいっ!!」
「綾乃、デカい声を出す方が注目を集めてしまうぞ?」
「っんぐっ!?」
由羅に言われて慌てて口を押さえる。
幸い、廊下には他に人はおらず、昼食を用意してくれている個室まで誰にも会うことはなかったが、そこまでのたった数分間でオレのメンタルがゴッソリ削られた気がした……
なんなんだよもう!!マジで勘弁してくれ……
***
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