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癒しのお憑かれ温泉旅行 第293話

「あやりんは何でそんなに照れてんだ?」 「は?」  昼食後、由羅がまたオレを抱っこしようとしたので全力で拒否っていると、月雲が首を傾げた。 「まだ具合悪いんだろ?別にいまさら隠すこともねぇんだし、照れることもねぇんだから遠慮しねぇで抱っこしてもらえばいいじゃねぇか。それとも俺が抱っこしてやろうか?」 「いや、遠慮っつーか……だってただの筋肉痛だし……」  抱かれたせいで筋肉痛で動けませんとかダサすぎんだろっ!?  それに、宿(ここ)には他の人だっているんだし……見られたらやっぱ変に思われるだろ!? 「いやいや、それ筋肉痛じゃねぇよ?」 「え?でもあっちこっち痛いし……!?」  嘘じゃねぇよ!?全身痛いし、普通に立とうと思っても全然力が入んなくて……いや、き、気合入れれば立てるけどっ!!だから立てなかったのはオレの気合いが足りないだけで…… 「あ~だからそれは……あれ?あやりんって憑依されんの初めてか?りなちゃんからあやりんは経験あるみたいって聞いたけど」 「憑依されんのは初めてじゃないっすけど……ガキの頃に何回か……」 「だよな?その時ってあとで寝込まなかったか?」 「へ?」  たしかに寝込んでたけど……  でも、あとでっていうか……寝込んでる時に乗っ取られる感じだったしな……   「まぁそりゃそうか。弱ってる時に狙われやすいからな。ん~……あのな、軽く憑かれるのと違って……あ、軽くっつーのは、俺らがパッパッて簡単に追い祓える程度の霊ってことな」  月雲が虫を追い払うように軽く手を振った。 「そういう(やつ)と違って、昨日みたいに完全に憑依されるってことは一つの身体(うつわ)に二つの魂が入った状態なわけ。まぁ詳細はめんどうだから省くけど、どう考えても普通じゃない状態だよな」 「はぁ……まぁそっすよね……」  霊に乗っ取られるのが普通であってたまるかっ!! 「うん、で、憑依されると生気や精気を吸い取られる。色情霊に憑依されると特にな。だからめちゃくちゃ身体に負担がかかってんだよ。今あやりんが身体が痛いっつーのも憑依のみたいなもんだな。除霊後にしばらく寝込むのはよくあることだ。っつーわけで、あやりんも数日は動けなくて当然なんだよ」 「……後遺症?じゃあこれってあの……え……えっちのせいじゃねぇの?」  莉玖もいるのでちょっと声を潜めた。 「え?……ブハッ!!アハハハ!!違う違う!そもそも、昨日は突っ込んだだけで、最後までしてねぇんだろ?だったらせいぜい尻がちょっと痛い程度だって!そんな動けなくなるくらいしようと思ったらかなり激しくしなきゃだぞ?」 「……え……!?」 「もしかして、えっち(それ)のせいだと思って照れてたのか?アハハハッ!あやりん可愛すぎっ!」 「師匠!!声がデカすぎですっ!!子どもがいるんですから言動には気を付けてください!」  月雲がオレを指差しながら大爆笑し始めたので、由羅が慌ててその指をペチンと叩いて注意した。   「だっておまえ……っくく……ハハハッ!ぐぇっ!」  腹を抱えて爆笑しながら寝転んだ月雲の胸の上に、莉玖がバタンと倒れこんだ。  よくわからないが楽しそうなので参加したくなったらしい。 「きゃはははっ!り~ちゅんも!」 「お~、来たかおチビ~!ほれ、飛行機してやろう。飛んでけ~!」  月雲が寝転んだまま莉玖を持ち上げ、自分のすねに乗せて飛行機ごっこをしてあやし始めた。 「きゃ~!あ~の!にぃて(みて)~!」 「え?あぁ、スゴイな莉玖~!」 「あ~の、ぱっぱぁ~!にぃて~!おもちぃ~ね~(おもしろいね~)!」 「師匠、しっかり支えてくださいよ!?落とさないで下さいね!?」 「わぁ~ってるって!――」  月雲は子どもは苦手だとか言っていたくせにいつの間にやら莉玖と仲良くなっていた。  微笑ましくていいのだが、オレは月雲の言葉が引っかかってそれどころではなかった。  え、最後までしてない……ってどういうこと? *** 「なぁ由羅……あの……最後までしてないってどういう意味?」  由羅の腕を引っ張り、月雲と莉玖に聞こえないよう耳元に口を寄せて小声で問いかける。 「そのままの意味だが?」 「そのままって?」 「だから……繋がらないと綾乃の中にいる霊を視ることができないから一応突っ込みはしたが、別にそれ以上はしてない」  いや、突っ込んだ以上のことって何!?それってつまりえっちしたってことじゃねぇの!? 「動いてもないし、射精()してもない」 「……はいっ!?」  ど、どういうことっ!? 「突っ込もうとしたら綾乃が泣いて怖がったからな。だけだ」 「……え、は?ちょ、待って……」  たしかに、突っ込まれる時にちょっと痛くて……というか、由羅のユラさんのデカさにビビって思わず逃げようとして……で、由羅に押さえつけられたのは覚えてるけど……そのあとは実はあまりよく覚えてない…… 「視えるようになったらすぐに霊を引きずり出した。往生際が悪い霊でちょっと手こずったが……」  由羅が月雲から聞いた話では、色情霊は性欲を満足させてやればしばらく大人しくなるのでそこを狙って除霊するのが簡単なのだとか。  だけど、オレが泣いたので由羅は結局……最後まではせずに、早々にキャサリンとオレを交代させて表に出て来たキャサリンを無理やり引きずり出そうとしたらしい。  でもそのせいで、『最期くらいえっちさせなさいよっ!せっかくいい男にデカいのをぶち込まれてるのにえっちもせずに成仏できるかぁああああっ!!』と性欲ゲージ満タンでブチ切れのキャサリンの抵抗にあってちょっと……いや、かなり大変だったとのことだった。 「えっと……お、お疲れ様です」 「綾乃が全身痛いと言っているのは、たぶん(暴れる霊を)私が無理やり押さえつけていたせいだ」 「あぁ……なるほど……そか、そういうことだったのか~!ハハハッ!」  な~んだ……オレ、由羅と最後までヤってねぇんだ……そか……  ん!?って、なんでオレ今ちょっと残念とか思ったんだっ!?    残念がっている自分がよくわからない。  オレは自分の感情に首を傾げつつ、結局また由羅に運ばれて部屋に戻った。   ***

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