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癒しのお憑かれ温泉旅行 第299話

「そんじゃ、おやすみ」 『は~い!おやすみ~!』  ベッドで眠る莉玖を愛おしそうに眺めていた莉奈にそっと声をかけて寝室を出た。  帰る間際に月雲(つくも)がもう一度霊力を分けてくれたので、莉奈はおそらく明日の昼頃までは実体化しているはずだ。  莉奈曰く実体化しても幽霊なので別に眠たくはないらしいが……   『だからね、私のことは気にしないでいつもみたいにベッドは綾乃くんたちが使ってくれていいのよ?』  と言われても、実体化していると姿を消すことも浮くことも出来ないらしい。  つまり見た目は普通の人間なわけだから、白いワンピースを着た女性が夜中に莉玖のベッドの隣でジッと佇んでいると……それこそホラーだろう?  というわけで、莉奈には今夜は由羅のベッドで莉玖と二人で眠ってもらうことにした。   ***  え~と、ゲストルームのベッドメイキングはしたし、あとは食器洗って、乾燥機から洗濯物出してたたんで、風呂掃除して…… 「ん?あれ、もう出てたのか」  リビングに入ると、風呂上りの由羅がお茶を飲みながらパソコンでメールチェックをしていた。 「あぁ、ざっと汗を流しただけだからな」    温泉に入って来たので、今夜はシャワーで済ましたらしい。  ふむ、由羅が出たんなら先に風呂掃除してくるかな。   「綾乃、どこに行くんだ?」  リビングから出て行こうとすると、由羅に呼び止められた。 「え、ちょっと風呂掃除を……」 「風呂掃除なら私が出る時に軽くしてある」 「そうなのか。ありがと」 「ちょっとこっちに来てくれ」  由羅がパソコンを閉じると、オレの腕を掴んで地下室へと向かった。 「え、ちょ、なに!?今!?」  風呂掃除以外にもすることはいっぱいあるんだけどな~……  と思いつつも、一応雇い主なので大人しくついて行った。 「んで、なんだよ?……ですか?」 「綾乃も座れ」 「はいよ、座りましたけど?」  由羅はソファーに座ったところでようやくオレの腕から手を離した。 「綾乃、温泉でのことだが……」 「あ~……」  温泉でのことね……やっぱりお説教あります?  地下室に来るということは、ということだから、まぁ何となく予想はしてたけどな。 「はい!ごめ……」 「すまなかった」 「……へ?」  先手を打って謝ろうとしたオレは中途半端に頭を下げたまま、目の前で深々と頭を下げている由羅を見た。 「え、あの……な、なにが?」 「祓うためだとはいえ、その……」  由羅が気まずそうにちょっと額を掻いた。 「……あぁ……オレとヤったこと?」 「そうだ。考えてみると温泉(あっち)では綾乃にちゃんと謝ってなかったと思ってな」  そうだっけ?  なんかもういろいろとありすぎて……そんなことまで覚えてねぇんだけど…… 「でもあれはオレの自業自得だし……」 「いや、私の霊力が戻っていないことやブレスレットを外さないように伝えていなかったのは私の落ち度だ」 「あぁ、まぁ……そうだな。由羅の霊力やブレスレットのことについては先に伝えておいて欲しかったな。オレが油断してたのも悪いけどさ」 「たしかに綾乃にも隙があったと思うが、綾乃が油断したのは私が傍にいたからだろう?」 「う……ん……」  由羅が傍にいれば変な(やつ)は寄ってこないだろうと勝手に思い込んで油断していたのは否めないが…… 「師匠に嵌められたのは私も同じだが、結局大変な思いをしたのは綾乃だからな。傍にいたのに護ってやれなくてすまなかった」  そういうと、由羅はオレの頬を軽く撫でた。 「あ……うん……」  由羅が真面目な顔で謝ってくるのでどう返せばいいのかわからず戸惑う。  だって、温泉では由羅は「なんでよりにもよって色情霊なんかに憑かれてるんだ!この馬鹿がっ!!」ってめっちゃ怒ってたはずですけど!?  それなのになんで急に……ハッ!もしかして…… 「おおおお前誰だっ!?」 「ん?」 「ゆ、由羅じゃねぇだろ!?由羅を返せよ!!」  由羅もオレみたいに何かの霊にとり憑かれてるんじゃねぇの……!?  オレは由羅の中に入っている(かもしれない)霊を呼び出そうと由羅の頭をガシッと両手で掴むとブンブンと上下左右に振った。 「綾乃?ちょ、こらっ!なんなんだ!?なにを言ってる!?おい、やめろっ!」  由羅に両手を掴まれたかと思うとソファーに押し倒された。  というか、押さえつけられた感じ? 「落ち着けっ!!急にどうした!?」 「由羅を返せってばっ!」 「返せもなにも私が由羅だ!!綾乃はさっきから一体何を言っているんだ!?」 「……え、本当に由羅なのか?」 「とはどういう意味だ?……むしろ私以外の誰に見えるんだ?」 「だって……温泉ではオレが憑かれたってわかった時、由羅めちゃくちゃ怒ってたじゃんか……それなのに急にそんな謝って来るから……」  オレの話を聞いた由羅が、「なんだそれは……」と呆れたように長いため息を吐いた。 「あれは……怒って当然だろう!?色情霊が綾乃の中に入って襲ってきたんだぞ?綾乃の顔で、綾乃の身体で、綾乃の声で……あんな……~~~っ胸くそ悪いっ!」  由羅が言葉を濁して唸ると、横を向いて舌打ちをしながら眉間に皺を寄せた。  え、どういうこと!?  オレの意識が戻る前にキャサリンさんが……由羅がこんなに怒るようなことをしたってことだよな!?  待って、キャサリンさんオレの身体で一体何やったんだよおおお――っ!? ***

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