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癒しのお憑かれ温泉旅行 第300話
「あの……す、スミマセンデシタ……?」
なんだかよくわからないが、ひとまず謝っておく。
乗っ取られていたとはいえ、オレが言ったわけだし……なにも覚えてなくて申し訳ない……
「いや、謝るのは私の方だ。すまなかった……あれは結局ただの八つ当たりなんだ……」
「はい?」
やつあたり?
「……綾乃からは絶対言われるはずのない言葉を色情霊 から聞かされたら……さすがに胸くそ悪いっ」
オレのせいでぐしゃぐしゃになっていた髪を掻き上げつつ、由羅がため息交じりに呟いた。
「オレから言われるはずのない言葉って?」
「え?あっ!……いや、それは綾乃は気にしなくてもいい」
オレの問いかけに由羅がちょっと焦って顔をしかめた。
どうやら声に出すつもりはなかったらしい……が、
「いやいや、めちゃくちゃ気になるわっ!そこまで言ったんだから教えてくれよ!オレ一体由羅になに言ったんだよ!?教えてくれないと気になりすぎて眠れないっ!!」
オレが食い下がると、由羅は渋々口を開いた。
「先に言っておくが、これは別に綾乃が言ったわけじゃないぞ?あの色情霊が言ったことだからな?」
「わかってるって!で、なに?」
「まぁ、例えば……『――』だとか『――』……というようなことを……」
「……はああああああっっっっ!?」
オレは由羅がこんなに怒るということはよほどの暴言を吐いたのだろうと思っていた。
だが……予想外の言葉にオレは思わず素っ頓狂な声をあげた。
どうやらキャサリンさんは由羅にいろいろとその……下ネタというか……いわゆる卑猥な言葉を吐きつつ迫っていたらしい……
キャサリンさああああああああああん!!
おおおオレの身体でなんてこと言ってくれてんだっ!
これじゃオレがめちゃくちゃ淫乱ビッチなど変態みたいじゃねぇかっ!
……あ、でもキャサリンさんは色情霊だし、とり憑いてえっちするのが目的なんだし……そういうことを言って相手に襲い掛かるのは当たり前と言えば当たり前……なのか?
「だから、綾乃は絶対に言わない言葉だと言っただろう?あの時、部屋に戻ってから様子が変だとは思っていたが、その言葉を聞いた瞬間、これは綾乃じゃないなと確信した」
「なんでオレは言わないって決めつけるんだよ?」
まったくその通りなのだが、由羅があまりにも自信満々に言うので、何となく悔しくてつい言い返してしまった。
「言ったことがあるのか?誰にだ?」
「言ったことはない!」
「言われたこともないだろう?」
「うるせっ!どうせ童貞だよっ!」
由羅が横を向いて噴き出したので、ムッとしてクッションで由羅の頭を叩いた。
***
それにしても……
「なぁ、それで、由羅はなんであんなに怒ってたんだ?」
「は?」
「だって……由羅は……その、一応オレとそういうことしたいって思ってたわけだろ?」
オレはキスより先のことは考えてなかったっつーか、正直ちゃんとわかってなかったけど……
でも、由羅は一応そういうのはわかってたわけだし?
だったらオレがそういう卑猥なこと言ったからってそんなに怒ることなくね?
あ、オレのことは好きだしヤりたいけど、そういうのはやっぱり女の子に言われてこそ嬉しいってことか?
そりゃまぁ、男に言われても……
「私は……そういう言葉は綾乃本人から聞きたかったんだ」
「オレ?」
……へ?どゆこと?
「あれは綾乃が言ったわけじゃないだろう?綾乃に入った色情霊 からじゃなくて、どうせなら綾乃本人から聞きたかったんだ」
オレ本人から……?う~ん……え~と……
「まぁ、綾乃はそんなことを言うわけがないんだがな。だからこそ余計にあの霊に腹が立……」
「……ゆ……“由羅のデカいのを奥まで突っ込んでぐちゃぐちゃにして?”(棒読み)」
「……は?」
「どうよ!?……あれ、由羅?お~い、生きてる?」
キャサリンさんが言ったという言葉をオレが真似した瞬間、由羅の時が止まった。
目と口を大きく開けたマヌケな顔の由羅がオレを凝視してくる。
あれ?オレ、セリフ間違えた?キャサリンさんが言ったのってこんな感じじゃねぇの?由羅がさっき話してくれたのを結構忠実に再現したはずなんだけどな~……
「ゆ~ら~?お~い、どうかしたのか?」
顎外れてんのか?
固まっている由羅の顔の前で手を振ると、不意に手首を掴まれた。
「ぉわっ!?びっくりし……」
「綾乃……いま……なんて言った?」
「え?あぁ、いやさっきのは……由羅がオレ本人から聞きたかったとか言うから……でもさぁ、キャサリンさんが言うのもオレが言うのも変わらないだろ?どっちもオレの声なんだし、オレの顔だし……結局気持ち悪いのは一緒だっただ……ろ?……って、ちょ、由羅!?なんでそんな怖い顔して……え、なにす……んんっ!?」
オレはただ……男にそういうことを言われても嬉しくないよな……ということを言いたかっただけで……
それなのに、なぜかオレは気が付いたら由羅に組み敷かれて口唇を塞がれていた。
あ、なんかヤバい……オレ今度こそマジで由羅を怒らせたっぽい……
***
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