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空からのプレゼント 第304話

――~の!あ~の!お~ち~て~!お~たよ~!」 「ん~……?」  頭を押さえつけられているような気がして薄目を開けると、眼前に莉玖のドアップ。   「……んあ?」 「おぉ~~ちぃ~~てぇ~~~!」  莉玖がオレの額に額をくっつけて、物凄い勢いでグリグリと擦りつけてきた。 「あいたたた!っつか、熱っ!おでこ熱っ!起きます!はい!起きました!莉玖ストップぅ~~!」  オレが軽くポンポンと莉玖の背中を撫でると、莉玖がパッと顔を起こしてにっこり笑った。 「あ~の!り~ちゅんよ~!:おでちょ、うりうり~、ね~!」  うん、“おでこグリグリ”はオレが莉玖によくしている仕草だけど、オレはもっと優しくしているはずだぞ、莉玖くん?……まぁ、なかなか起きなかったオレが悪いんだけど……あ~あ、莉玖のおでこが……  オレは苦笑しながら、熱くなった自分のおでこと、赤くなっている莉玖のおでこを撫でた。 「おはよ~莉玖~!あはは、おでこ赤くなってるぞ~?頑張って起こしてくれたんだな、ありがとな~!」 「あ~い!」  オレの真似をして莉玖も自分のおでこを撫でた。  あ~……ヤダもう何この可愛い天使ちゃん!  朝から目が浄化されるぅ~!癒されるぅ~!  なんせ昨日は……ん?……昨日?そうだ、オレ昨日は由羅と……――  徐々に覚醒してきたオレは、昨夜の由羅との一件を思い出して…… 「ぅわああああああああああっっ!!」  胸元から莉玖を引っぺがしてクルリとうつ伏せになると、枕に顔を押し付けて叫んだ。 「あ~の?ねんね?」 「ぅ~~……ねんねしたい……」  そして昨日のことは全てワスレタイ…… 『おはよ~、綾乃くん!』  枕に顔を伏せているオレの耳に莉奈のクスクス笑いが聞こえて来た。  莉玖がオレの目の前を占領していたせいで見えなかったが、どうやら莉奈もベッドの横にいたらしい。 『ねぇ、起きたなら朝御飯食べて!私、今ならまだ実体化してるから、もうしばらく莉玖と遊べそうなの!だから綾乃くんもゆっくり朝ご飯食べられるわよ!さぁ、莉玖はお尻キレイにしましょうね~――』  莉奈は嬉しそうにそう言うと、オレの背中をトントンしてくれていた莉玖を抱き上げ、オムツを替えるために連れて行ってしまった。  ……起きるか。  いまさらヌきあったくらいでジタバタしても仕方ねぇよな。やむを得ない状態だったとはいえ数日前には由羅に……抱かれたんだし……   「ん゛~~~!」  オレは枕に顔をゴシゴシ擦りつけて大きく息を吐くと、のっそりと起き上がった。 ***  顔を洗ってパンッ!と両頬を叩いて気合を入れた。  よしっ!あんなのどうってことない!平常心平常心! 「……あれ?由羅は?」  リビングに入ったオレはキョロキョロとリビング内を見回した。  寝室にいなかったので、てっきり先に起きてリビングにいるものだと……  せっかく気合い入れたのに肩透かしを食らった気分だ。 『もうとっくに仕事行ったわよ~?』  仕事? 「え……待って、今何時だ!?」  慌てて時計を見ると、もう朝の8時過ぎ。  由羅の出勤時間はとうに過ぎていた。  つまり…… 「やべぇえええええ!!寝坊したあああああっっ!!」 『あら、今気づいたの?』  莉奈が呆れ顔でオレを見た。  そうだよ、なんで気づかなかったんだ……いつもは起きたら無意識に時計を見ているのに……  何でもないと言い聞かせつつもやはり動揺していたらしい。 「あ~えっと……寝ぼけてて今まで時計見てなかった……ど、どうしよう、え、朝飯は!?お弁当は!?由羅どうしてた!?莉奈がやってくれたのか?」 『ん~?ちょっと待ってね……はい、きれいになったね~!じゃあ、莉玖おしり拭きをお片付けしてきてくれますか~?』  莉奈は、莉玖にスパッツを穿かせるとおしり拭きをいつもの場所に戻すように莉玖に渡した。 「あ~い!」  莉玖が伝い歩き出来るようになった頃からオレが教えているので、今では大きい方が出たらオレが気付く前に自分で取りに行ってオレに渡して来ることもある。  莉玖がおしり拭きを戻すのを二人で見守り「上手~!ありがと~!」とひとしきり褒めたところでまた我に返る。 「なぁ、莉奈さ~ん……?」 『そんなに心配しなくても兄さんは自分の朝ご飯くらい適当に用意して食べるわよ。でも今朝は朝ご飯とお弁当は私が用意したわ。毎朝綾乃くんの横で見てたから、ちゃんと作れたわよ~!ほら、莉玖と綾乃くんの分も作ったの!お昼に食べてね!あ、私はもう味はわからないけど、ちゃんと兄さんに味見してもらったから大丈夫なはずよ!』  莉奈が冷蔵庫を開けてオレと莉玖のお弁当箱を見せて来た。中身はお昼まで秘密らしい。 「そか……ありがとう、マジ助かったぁ~!莉奈さま~!」  オレは安堵の息を吐きつつ椅子に座り込むと、莉奈に向かって両手を合わせて拝んだ。  いやこれ、莉奈にするとシャレにならねぇけど……  でも、お弁当まで作ってくれると思っていなかったのでちょっと驚いた。 『いいのよ。兄さんはみたいなものだし』 「ついで?」 『私ね、ずっと莉玖にご飯を作ってあげたかったの。元カレ(あいつ)と付き合い始めた頃に、喜んでもらいたくて必死でお料理教室に通ってたから、これでもお料理の腕は悪くないと思うのよ。だけど、離乳食はほとんど手作りする余裕がなくて……』  莉玖が生まれてからは、幼い莉玖を連れて逃げ回る日々だったらしいので、落ち着いて離乳食を作る余裕がなかったというのもわかる。もうその頃には莉奈は心身ともに疲弊しきっていたはずだし…… 『だから、莉玖のために朝ご飯とお弁当が作れてとっても嬉しいわ。あのね、莉玖にはキャラ弁にチャレンジしてみたのよ。でもあれって、思ってたより難しいのね……ちょっと失敗しちゃって……結局綾乃くんが前に作っていたのを真似して作るのが精一杯だったわ』 「そか、お昼が楽しみだな!キャラ弁は難しいよな、オレも挑戦しようとしたけど難しいのは出来なかったからな~……ホントに、お母さんたちってスゴイよな~……」 『そうね、綾乃くんが作ってる時には、こんな風にすればいいのにな~、とか、私だったらもっと可愛いキャラ弁にしてあげるのに!とか思ってたけど、実際やってみると全然ダメだった……“言うは易く行うは難し”ってやつね。あれはだいぶ練習が必要だわ』  莉奈が苦笑いをして『もっとお弁当作りも練習しておけば良かったわね、ごめんなさいね』と莉玖を抱きしめた。  「なんのこと?」というようにちょっと首を傾げつつも、嬉しそうに莉奈に抱きつく莉玖。  莉奈にかける言葉が見つからなかったオレは、微笑ましい二人の様子を眺めつつトーストにかじりついた。     ***

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