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空からのプレゼント 第306話
「莉玖~、今日のお弁当はママが作ってくれたんだぞ~!?ママありがと~!」
「まんまっ!あんちょ~!」
オレが莉奈に向かって拍手をすると、莉玖も万歳して莉奈にパチパチと手を叩く。
「どんなお弁当か楽しみだなぁ!よ~し、それじゃ~……オープ……ん?」
莉玖と一緒にノリノリでお弁当箱の蓋を開けようとした時、ちょうど携帯が鳴った。
「ありゃ、由羅だ……珍しいな……」
由羅の昼休憩中にテレビ電話をするのはもう日課になっている。
ただ、由羅は忙しいので莉玖が食べる時間に一緒にお昼ご飯を食べられるのは珍しい。
普段なら全然良いんだけど……今日はもうちょっと遅い時間の方が良かったな~……
「莉玖、ごめん。パパから電話だ。“いただきます”するのはちょっと待ってくれるか?」
「あ~い!」
返事をしながらも、もうすでにお弁当しか目に入っていない莉玖が嬉々として蓋を開けようとしていたので、急いでちょっとお弁当箱を遠ざけた。
莉玖は一瞬不満気な声を上げたが、『莉玖、いただきますの前にお弁当の絵本読もうか!』と莉奈が機転を利かせてくれたのでなんとか機嫌が直った。
さすがママ!莉奈感謝!
***
「もしもし、由羅?」
「綾乃?起きたのか。具合はどうだ?」
「はい、起きてます!え~と、今日は寝坊してごめん。オレは大丈夫だ。莉玖も元気だ。で、今からちょうどお弁当を食べるところなんだけど、オレ今めちゃくちゃ忙しいから今日のお昼は繋ぐの無理!切るぞ!?」
オレが早口で一気にまくし立て早々に電話を切ろうとしたので、由羅が慌てた。
「え!?ちょっと待てっ!どういうことだ?何があった?」
「だって、せっかく莉奈がお弁当を作ってくれたんだぞ?莉玖に動画を残してやらなきゃだろ?」
莉玖にとってはこれが最初で最後の母親の手作り弁当……かもしれないんだし……
霊体の莉奈を実体化させられるのは、オレの知る限りでは住職と月雲だけだ。
それもかなりな霊力を使うらしいので、ホイホイ出来るものじゃない。
そもそもあの二人に次いつ会えるかもわからない。
温泉で会ったのは月雲にとっても予想外だったと話していたし……
「……なるほど……そうだな。莉奈はまだ実体化しているのか?」
「うん、一緒に映れるかはわかんねぇけど、一応撮ってみる!ってなわけで、今日はひとりで食ってくれ!あ、ちゃんと食えよ!?」
「イヤだ」
「は?オレの話聞いてたか?」
「聞いていた。じゃあノートパソコンの方にかける。それなら大丈夫だろう?」
「え?あ~……まぁそうだな。わかった、ノートパソコン起動するからちょっとだけ待って。起動したらこっちからかける」
「あぁ、頼む」
オレは電話を切る前にもうノートパソコンを取りに立ち上がっていた。
携帯がダメならノートパソコンの方で、ということらしい。
まぁ、莉奈 のお弁当を食べる莉玖の様子を由羅もリアルタイムで見たいってことかな。
***
「お待たせ莉玖~!それじゃあ、パパも一緒に~、今度こそ~……オープン!」
「お~ぷぅ~!」
ノートパソコンをテーブルに置いて由羅に繋ぎ、一緒にお弁当箱を開けた。
「きゃぁ~!こっこたん!ぴよたん!」
お弁当を見た莉玖が自分のほっぺに両手をあてて歓声をあげた。
莉奈が作ってくれたのは、ニワトリとひよこの親子弁当だった。オレが初めて莉玖にキャラ弁を作った時と同じだ。でも最近はこの親子弁当は作っていなかったので、莉玖は初めて見たかのようないい反応をしてくれた。
オレが作ったやつよりも上手だしな……今はオレだってもうちょっと上手に作れるようになったけど!
お弁当箱の中身は……ニワトリとひよこのおにぎり、周りにはタコさんウインナーや、ハムで作ったお花やハートの卵焼き、星やハートに型抜きされたチーズとにんじん、隙間はブロッコリーとミックスベジタブルで埋められていた。
「あ~の!みて~!かぁ~い~ね~!」
「お~、可愛いなぁ~!ほら、綾乃も一緒だ!パパのは~!?」
「ん?あぁ、私のは……のり弁だ」
ニコニコしている莉玖とオレの視線を受けて、由羅がちょっと視線を泳がせて小声で答えた。
「え?……」
のり弁?莉奈が作ってくれたのは食べないのか?落としたとか?
一瞬、莉奈の作ってくれたお弁当に何かあって食べられなくなったからコンビニででも買って来たのかと思ったのだが、由羅の前にはちゃんと由羅がいつも使っているお弁当箱があった。
「それって莉奈が作ってくれた弁当?」
「そうだ」
由羅がお弁当を見せてくれたが、たしかに……海苔が一面敷き詰められた黒い表面の端っこにポツンとタコさんウインナー、卵焼き、ブロッコリー等が乗っていた。
『あ~、えっと……ち、違うのよ!仲間外れとか嫌がらせとかそんなんじゃなくてね!?あの……だって……兄さんはこんな可愛いお弁当はイヤだろうと思って……で、でもあの、それ海苔の下にはちゃんとそぼろと炒り卵もあるから!三色弁当みたいな感じでこういろいろ重ねてるっていうか……』
由羅がイヤがるからというよりは……どちらかと言うと莉奈が照れたのだろう。
なんせ、生きている時はほとんど由羅と話したことがなかったみたいだしな……
作っている途中で恥ずかしくなって海苔を被せて隠したらしい。
由羅が無言でお弁当を写真に撮って、ちょっと口元を綻ばせた。
「美味しそうだ。莉奈、ありがとう」
『え?あ、う……うん……』
オレは兄妹のやり取りもしっかりと録画した後、録画を一旦止めて莉玖とオレの分のお弁当も写真に撮った。
カメラ係は大忙しだ。
「さて、それじゃ食べるか!いただきま~す!」
「いちゃま~しゅ!」
『は~い、召し上がれ~!』
嬉しそうにお弁当を食べる莉玖とそれを見守る莉奈を撮りながら、オレも合間にお弁当を食べる。
うん、美味しい!
莉玖とオレのニワトリおにぎりは鶏そぼろの混ぜご飯になっていて、その表面に白いご飯を薄くつけて握ったらしい。だから表面的には白いニワトリだが、かぶりつくと混ぜご飯となっている。
ひよこおにぎりはそぼろではなく炒り卵を混ぜていた。
それにしても……失敗して結局コレを作ったって言ってたけど……最初はどんなのを作ろうとしてたんだろうな~……
***
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