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空からのプレゼント 第309話

 由羅に莉玖を渡したオレは、ホッと息を吐いた。  正直、由羅がデリバリーを頼んでくれて助かった……  長時間荒ぶる莉玖を抱っこしていたので、もうオレの腕が限界で……ほぼ力が入らなくなっていた。  莉玖は遠慮なく全力で暴れるけれども、こちらは力加減をしながら抱っこしなければいけないので、普通に抱っこするよりも疲れるのだ。  「今から作る」と言ったものの、こんな状態じゃすぐには包丁を握れるかも怪しい…… 『綾乃くん、腕、大丈夫?プルプルしてるわよ!?』 「ん?あぁ、大丈夫だ。しばらくマッサージすれば戻るよ」  オレはゆっくりと手指を動かしストレッチとマッサージをしつつ、莉奈に笑いかけた。   『ごめんなさいね、私のせいで……』 「莉奈のせいじゃねぇよ。気にすんな!」  しょんぼりと俯く莉奈の頭を撫でかけて、そういえばもう触れられないんだっけ……と、慌ててその手を上に伸ばしてストレッチをしているフリで誤魔化した。 「綾乃、デリバリーが来るから上に行……」 「パッパ、やあああああああよおおおおおお!!あああのおおお!!」 「痛っ!」  莉玖の反撃を上手く躱していた由羅だったが、オレに話しかけようとして莉玖からちょっと目を離した瞬間、顔面に莉玖の荒ぶる平手打ちをもろに受けた。 「由羅!?」  由羅が顔を押さえて固まった。  ペチンといい音はしたが、所詮2歳児の手のひらだ。  多少は痛いが、普通はその痛みも一瞬で終わる。  ただ例外があって…… 「大丈夫だ。ちょっと目に当たっただけだ」  目!?   「それダメじゃね!?見せて!?」  子どもに顔を叩かれたり掴まれたりすると、爪などで負傷することがあるのだ。  爪はどれだけ切っていても掴まれると刺さって薄皮剥がれるし、指が細くて小さいせいか目を瞑っていてもグリッと入って来ることがあるんだよな~……   「え?いや……軽く当たっただけで……」 「いいからさっさと見せろ!」 「はい!」 「ちょっと座れって!身長差あんだから(かが)んだくらいで見えるわけねぇだろ!?チビなめんなよ!?」 「別になめてはいないが……これでいいか?」  由羅が暴れる莉玖を抱きかかえたままちょっと屈んだが、それくらいじゃちゃんと目を見ることが出来ないので床に座らせた。   *** 「左だけ?」 「左だけだ。別に大丈夫だろう?」 「あ~……うん、まぁ……ちょっと待てよ。えっと……」  少し赤くはなっていたものの、出血などの目立った外傷は見られなかったのでちょっと安心する。  細かい傷はわかんねぇけど、自分で目を開けられるってことは大丈夫なのかなぁ……?  オレは急いで救急箱を漁って、目薬と精製水を取り出した。   「由羅~、目薬と精製水で洗うのとどっちがいい?」 「何が違うんだ?」 「どっちも目に負担が少ないから使って大丈夫だとは思うけど……目薬は人工涙液とか言うやつで、精製水は……たぶんきれいな水?」  目薬は外遊びで埃などが入った時用で、精製水はケガをした時に傷口を流すのにも使えるので、一応莉玖に何かあった時のために用意してあったのだ。  精製水の成分?そんなもん知らん!どっちも保育園で使ってたからいいのかなって思っただけだ! 「……無難に目薬にしておく」 「はいよ」 「さしてくれ」 「オレが?」 「今は莉玖を抱っこしていて手が塞がっているから……」 「さしてる間くらい莉玖抱っこするけど?」 「ぅ……い、いや……その……」  オレが莉玖を抱き取ろうとすると、由羅がちょっと動揺した。 「由羅……?もしかして目薬苦手か?」 「~~~っ!苦手で悪かったな!」  由羅が不貞腐れたように顔をしかめた。  え~、そんな怖い顔しても耳赤いですけど~?  由羅の様子に思わず顔がにやけた。 「全然悪くねぇけど、自分でさせないならそう言えばいいのに~」 「いいから、早くしてくれ!」 「はいはい、目閉じるなよ?」  目薬を待つ由羅の顔が完全に目薬苦手な子どもと同じ状態になっていた。  全身に力が入りすぎ。  思いっきり目を開けてるけど、それってたぶん……さす時には目瞑っちゃうやつだよな~。   「あっ!」  案の定、由羅は目薬をポトリと落とした瞬間ギュっと目を瞑った。 「もう!閉じるなって!」 「綾乃が早くささないからだ!」 「わかったわかった、それじゃカウントダウン入りまーす。3,2……」  1を言う前に由羅の目に落とす。 「っ!?」  目薬が目に入った瞬間、由羅の身体がビクッとなったので、莉玖もつられてピョコンと跳ねた。   莉玖は何が起こったのかわからず、驚いた顔でオレと由羅の顔を交互に見てきた。 「はい、終わり~」 「綾乃……カウントダウンの途中だったぞ?」  目をシパシパさせながら恨めしそうに文句を言ってくるところまで子どもと同じで、オレは思わず吹き出した。 「ぶはっ!……っくく……うん、だからちゃんと入っただろ?」  バカ正直にゼロカウントで入れたら目閉じちゃうだろうが!   「なるほど……」 「で、目薬しみる?痛い?」 「いや、それほど痛くない」 「そか、良かった。でも明日もし目に異常が出たら絶対病院行けよ?」 「わかっている。目が使えないと車の運転も出来ないし、仕事にもならないからな」 「だな。それにしても……ぷっ、ははは!由羅が目薬苦手とは意外だったな~!」 「目に異物が入るのがイヤなんだ!それに、目薬をさすと液体が喉の奥まで流れて来るだろう?あれがイヤだ!」 「そかそか。響一くん、よく頑張りました!よしよし!」 「パッパ、よちよち!いいこ、ね~!」  オレが由羅の頭を撫でると、莉玖も真似をして撫でた。  ぐずっている自分を放置して由羅とオレが何やら始めたので、莉玖もそっちが気になってしまい母親から気が逸れたらしい。  ちょうどその時、インターホンが鳴った。 「おっと、デリバリーか。莉玖、ご飯食べようか!」 「まんま!?」 「そうだ。今日は中華だぞ。それじゃ上に戻るか」 「オレ先に行く!はいはーい!今出ま~す!!」  オレは先に部屋を出て急いで玄関へと向かった。 ***

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