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空からのプレゼント 第310話
「あ~の!り~ちゅん~!」
「は~い!……あれ?莉玖……だけ?」
デリバリーを受け取ってテーブルの上に並べていると、莉玖がひとりでよちよち歩いてリビングに入って来た。
「莉玖、パパはどうした?一緒に来なかったのか?」
「ここにいる。莉玖、手を洗ってないぞ。パパと一緒に洗いに行こう」
すぐ後ろから由羅が追いかけて来て、莉玖を洗面所に連れて行った。
「あ~い!ごっちごっち~!ね~!」
「そうそう、上手だ。あわあわ、ゴシゴシ……」
洗面所から仲良く手洗いをしている声が聞こえて来た。
莉玖の頭の中はすっかりご飯に切り替わったらしい。
おやつも食べずにずっとぐずっていたから、腹ペコのはずだしな。
食べ終わったらまたぐずるかもしれないけれど、とりあえずちょっとでも食べてくれればいい……
餃子や唐揚げを莉玖が食べやすい大きさに切り分けていると二人が戻って来た。
「おかえり~!上手に洗えたか~?」
「ごっちごっちよ~!」
莉玖が両手を前に突き出し、手のひらをオレに向けて見せてくれた。
「どれどれ?うん、きれいになってる!それじゃご飯食べようか!」
由羅も席について、みんなで“いただきます”をしようとしたところで、オレは違和感に気付いた。
「あれ……?」
莉奈がいない……
いつからいないんだ?オレが地下室を出た時はいたよな?莉玖がリビングに来た時は……たしか莉玖ひとりだった。……ということは……
由羅たちが地下室を出た時に何かあったのか?
「なぁ、由羅。莉……」
「んん゛、綾乃!ちょっと……」
オレの言葉を遮るように由羅が咳払いをした。
由羅はオレと目が合うと、ひとさし指をクイクイッと曲げて内緒話をする時の仕草をした。
莉玖に聞かせたくないってことか?
オレは莉玖に気付かれないようにそっと由羅に耳を近づけた。
「莉奈には今姿を消してもらっている。後でちゃんと理由を話すから、莉玖が寝るまで莉奈のことは口に出すな」
「え?あ……うん」
姿を消してるってことは、視えないだけで一応傍にいるってことかな?
オレは由羅に頷いて、莉玖ににっこり笑いかけた。
「莉玖お待たせ!はい、おててをあわせて~?いただきます!」
「いちゃまちましゅ!」
莉玖は目の前の焼売にフォークを勢いよくさすと、大きく口を開けて頬張った。
「莉玖くん、お味はいかがかな?美味しいですか?」
「ん~~~まっ!」
「そかそか、美味しいか~。それは良かった!よく噛んで食べるんだぞ~?モグモグして、ごっくんしたらお茶も飲もうな~」
オレは莉玖が喉を詰まらせないように見守りつつ、自分の口にも放り込んだ。
あ、この酢豚うまっ!天津飯もうまっ!
「綾乃、うまそうだな」
「めちゃくちゃうまいっ!……由羅のもうまそ~!」
「あぁ……ふっ……綾乃、欲しいならそう言え。ほら」
オレが由羅の食べている中華丼をじ~~~っと見ていたので、由羅がちょっと笑ってオレの口に放り込んできた。
いや、そんな……欲しいだなんて……ちょっとそっちもうまそうだな~って見てただけだし!?
あわよくば一口!とは思ってたけど!
「ん~~~~っ!うま~い!やっぱり料理人ってスゴイな~!」
「私は綾乃が作ってくれた方が好きだがな」
「オレこんなに上手に作れませんけど?」
「そうか?綾乃が作ってくれる料理はいつも美味しいぞ?」
「っつっても、中華はそんなに作ってねぇし。まぁ……また今度作ってみる……」
「楽しみにしている」
「お、おぅ……」
よし、後で作り方調べてみよう!
え、別に由羅のためじゃねぇし!?オレが食べたいだけだから!
莉玖も大人と同じようなものが食べられるようになってきたし、由羅も胃潰瘍が治ったから多少は脂っこいのも味付けが濃いのも大丈夫だし、そろそろこういうのも作ってみようかな~なんて……
うん、だからこれは別に……由羅に褒められて喜んでるとかじゃねぇし!
オレの料理スキルをアップさせるために練習してみようかなって思っただけだもん!
「綾乃、ひとりで何をブツブツ言っているんだ?」
「へ?べべべ別になにも!?」
「まぁいいが……ほら、口開けろ」
「あ~ん!!――」
***
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