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空からのプレゼント 第313話

――……というわけだ」  由羅から話を聞いた莉奈は、しばらく黙って俯いていた。  やがて大きく息を吸って顔を上げると、寂しそうに微笑んだ。 『……そうね、たしかに兄さんたちの言うとおりかもしれないわ――』 ***    由羅の話というのは、とにかくしばらくの間、莉奈は莉玖の前では姿を消しておく。というものだった。  もうこの世のものではない莉奈()に対して、姿を消せというのも変な話だが…… 「住職が実体化させてくれた時には翌朝莉玖がぐずることはなかっただろう?だから、私は今回も大丈夫だろうと勝手に思い込んでいた」 「……オレもさすがに莉玖がここまで長時間パニックになるとは思わなかったけど……」  由羅が言うように、莉奈が初めて実体化した時は、実体化が解けても莉玖はそんなにぐずらなかった。  一応莉玖が今回のようになる可能性も憂慮していたが、大丈夫だったのでホッとしていたのはオレも同じだ。  でも、前回が大丈夫だったから、今回も大丈夫とは限らない。  なんせ状況が違う。  前回は莉奈が実体化していたのは夜の間だけだった。起きている莉玖とも少し遊んでいたが、寝る前と起きてすぐだったので莉玖はたぶん寝ぼけていたのだと思う。    それに比べて今回は旅行に行っている間ほぼずっと実体化していた。  一緒にご飯を食べて、お風呂にも入って、一緒に寝て……ずっと一緒に過ごしていた。  しかも、しばらく実体化していた。  たぶん、それが大きな違いだ。  旅先だけなら、普段と違う“特別”な出来事として納得できたかもしれないが、帰宅しても莉奈に抱っこしてもらってご飯も食べさせてもらったことで、莉玖にとって莉奈が実体化していることがの一部に入ってきてしまったのだと思う。 「綾乃は師匠が帰り際に霊力を追加した時、師匠を止めようとしていたな?」 「え?あ、うん……」 「今思えば、綾乃はこうなるかもしれないと考えていたのだろう?だが、私はここまで考えが及ばなかった……」  あの時、帰宅後もしばらく実体化している。ということの危うさを感じて、オレは一瞬月雲(つくも)を止めようとした。  でも、嬉しそうな莉奈と莉玖の顔を見ていると……「実体化は旅先だけにした方がいい」とは言えなくて結局言葉を飲み込んだのだ。 「今回のことは楽観視して師匠を止めなかった私に責任がある。莉奈、怒るなら私に怒れ」 「いや、可能性に気付いてたのに何も言わなかったのはオレだし、責任っつーならオレにもあるだろ?――」 『あ~~~もう!』  オレと由羅が顔を近づけて小声で言い合いをしていると、莉奈が二人の間ににゅっと入って来た。  莉奈さん近い近い!めり込んでるからっ!! 『二人ともうるさいっ!心配しなくても私は兄さんにも綾乃くんにも怒ってないからっ!!怒ってるのは……自分自身によ。私、自分のことしか考えてなくて……莉玖と一緒にいられることが嬉しくて、私が霊体に戻った時莉玖がどうなるのかなんて全然考えてなかった……莉玖の母親なのに、莉玖の気持ちを何にも考えてあげられなかった自分が情けなくて……』   「だから、怒るなら私に怒れと言っているんだ。莉奈は何も悪くないだろう?自分を責めるな」  もう二度と触れることは出来ないと思っていた息子に触れられたのだから、莉奈が喜ぶのは当たり前だ。少しでも長く触れていたいと思うのは当たり前のことだ……  由羅が落ち込む莉奈の頭を撫でた。透けているのでエアーなでなでだったが、泣きそうな顔をしていた莉奈はちょっと驚いた顔をしたあと由羅に微笑んだ。 「莉奈、ずっと、というわけじゃない。莉玖はもともと莉奈のことは視えたり視えなかったりしていたのだろう?だから、落ち着けばまた少しずつ視える時間を増やしていけばいい」 『……そうね』  莉玖がいつまで莉奈を視ることが出来るのかもわからない状態で、わざと姿を消して過ごすのは……莉奈にとっては貴重な時間を捨ててしまうようなものだ。  それでも……莉玖のためを思えば、今は少し我慢してもらうしかない。  その後もいろいろと話し合い、明日から数日間は念のために姿を消した状態で様子を見ることになった。 ***

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