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〇〇の秋 第318話
「あった~!」
色づき始めた森に莉玖の嬉しそうな声が響いた。
「お、見つけたか~?」
「あ~の!ど~んぶぅぃ~!あった!」
「どれどれ~?」
オレは自信満々で指差している莉玖の指先を大袈裟に覗き込み、もったいぶった表情で莉玖と顔を見合わせるとニカッと笑った。
「お~、スゴイな莉玖!でっかい栗見つけたな~!」
「ちゅご~い!あったね~!どんぶぃ!」
莉玖が興奮してピョンピョン跳ねた。
まぁ、実際はほとんど浮いてねぇからほぼ屈伸だけどな……
「うんうん。あのな莉玖、これは栗って言うんだ。く、り!」
「う~でぃ~?」
「そそ。栗とどんぐりは似てるけど違うんだぞ~?なんと……栗は美味しいんだ!」
「おいち~?」
「うん、あとで食べような~!あ、触っちゃダメだぞ。トゲトゲ痛いからな」
「あい!」
栗のイガを触ろうとしていた莉玖が、慌てて手を引っ込めてオレの足にしがみついた。
***
今日は杏里たちと一緒に栗拾いに来ている。
杏里の知り合いが栗園を持っているということで、毎年この時期になると栗拾いや芋掘り体験をさせてもらっているらしい。
「それにしても、本当に栗いっぱいだな~」
オレは莉玖の見つけた栗をイガから取り出し、莉玖の持っているカゴに入れてやりながら広い栗園内を軽く見回した。
少し離れた栗の木の下では、杏里の4人の子ども達……一路 、朱羽 、それから双子の歌音 と詩音 も栗拾いに夢中になっている。
地面に落ちている栗をひとつ残らず拾う勢いの一路たちの頭上を見ると、栗の木にはまだまだ青いイガが残っていた。
今年は「表年」らしく、全体的に栗の実がたくさんついているのだとか。
「莉玖、そっちは地面がでこぼこだからこっちから行こうか」
「あ~い!」
「さっきみたいにトゲトゲ見つけたら教えてくれ」
「あい!」
まだ足元がおぼつかない莉玖はオレと手を繋いでゆっくり歩きながらの栗拾いだ。
葉っぱや虫に気を取られてなかなか進めない莉玖だが、一路たちが気を利かせて莉玖が歩ける範囲内のイガは拾わずにいくつか残してくれているので、莉玖も栗拾いを楽しむことが出来ている。
ちなみに、そのことについては一路たちから直接聞いたわけではない。
ただオレは、栗拾いを開始した時に一路が「ここからここまでのくりは、りくちゃんのぶんだよ。りくちゃんはまだとおくにいけないからね」と朱羽たちにこっそり言い聞かせているのを、たまたま聞いてしまったので知っているのだ。
一路パイセンって人生何週目なんだろうな……
さりげなく弟妹たちのフォローをする一路には、しょっちゅう驚かされる。
オレも見習おう……
そんな一路たちのフォローのおかげとも知らずに、莉玖は一路たちが残してくれたイガを見つけると「あった!」と素直に喜び、カゴに入った栗の実を見てニコニコとご機嫌だった。
莉玖は先をいく一路たちにも「あったぁ~!」とカゴを振って見せ、「スゴイね、りくちゃん!いっぱいとったねぇ~!」と声をかけられると満面の笑みを浮かべた。
まだイガは3個しか見つけていないが、一路たちに褒められた莉玖は「あ~の!どんぶぃ~!いっぱ~い!」ともう満足顔になっていた。
「莉玖、もう拾わないのか~?あっちにもトゲトゲ落ちてるぞ~?」
「え~?いっぱいよ~?」
莉玖が「こんなにいっぱいになったのになぜまだ拾う必要が?」とでも言いたげな表情で顔を傾けて、カゴをちょっと持ち上げた。
莉玖の中ではもう今日の目的は達成されたということらしい。
「もういっぱいか~」
オレは満足して地面に座り込んでしまった莉玖に苦笑しつつ頬を掻いた。
莉玖のカゴはどう見てもまだいっぱいではないのだが……莉玖が中身を落とさないように持って歩ける数としてはそのくらいでちょうどいいのかもしれない。
『栗と言えばやっぱり栗ご飯よね!あ、でも栗を使ったお菓子もいいわね~……』
オレの背後では、先ほどから莉奈が“食欲の秋”に浸っていた。
温泉旅行の翌日、実体から幽体に戻って急に触れられなくなってしまった莉奈に混乱していた莉玖だったが、一晩寝るとすっかり普段通りだった。
とはいえ、莉奈が姿を見せるとまた混乱してしまう可能性があるので、由羅に言われた通りに莉奈はしばらく莉玖の前では姿を消して過ごすことになった。
それから数日間、莉奈は辛抱強く大人しくしていた。
あまりの静けさに、もしかして家の中にいないんじゃないかと疑ってしまうくらいに。
でも莉奈は成仏したわけじゃないので相変わらずそこにいる。
そして、莉奈の沈黙は数日間しかもたなかった。
莉奈は大人しくしている間に、オレだけに聞こえるように話しかけるやり方を習得したらしく、この数日間のストレスを全部吐き出す勢いで話しかけて来るようになった。(やり方は以前住職に教えてもらっていたらしい)
莉玖の死角になるところでは姿も見せる。
莉玖に話しかけられない分、オレに話しかけてくるのはわかるが……
霊の声は頭の中に直接響いてくるので、長時間話しかけられると頭が痛くなるのだ。
できれば加減して欲しい……
「莉玖、あっちでお茶飲もうか」
莉玖が栗拾いを再開する様子が見られないので、オレは莉玖を連れて栗園の外にあるベンチへと向かった。
***
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