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〇〇の秋 第322話
「あ~もう!なんだよ!通してくれよ!オレ何もしてねぇだろ!?届け物があっただけで、もう帰るからさ~っ!」
「こら、静かにしろ!ちょっと話があるらしいから、大人しく待っていなさい!」
「はあ!?話って何だよ!?話があるならさっさとしろよ!」
学生時代はケンカに巻き込まれてよく警察のお世話になっていた。
見た目だけでオレが悪いと決めつけられることも多かったので今でも警察は苦手だ。
警備員は警察とは違うとわかっていても、制服が似ているのでなんとなく苦手意識がある。
だからなるべく関わりたくねぇんだけど……
警備員に引きとめられている理由がわからず押し問答していると、由羅が戻って来た。
「なにを騒いでいるんだ!」
「由羅!あの、オレ……ヒエッ!?」
由羅の声にホッとしたのも束の間、由羅の鬼のような形相に思わず変な声が出た。
やべぇ、なんか怒ってる!?え、なんで!?オレが会社に来たからか!?ここで騒いじゃったから!?
「ありがとう、後はこちらで対応するからきみは持ち場に戻ってくれ」
「はい」
由羅が来ると、警備員はあっさり手を離した。
どうやら由羅が警備員にオレを引きとめるよう指示していたらしい。
それならそう言えばいいじゃねぇか!オレ、何か悪いことしたのかと思って焦ったし!!
「あ~……あのさ、ゆ……」
「綾乃だけか?なぜここにいる?莉玖に何かあったのか?一体どうしたんだ!?」
「え、あの、えっと、り、莉玖は大丈夫だ。オレは、その、おまえに用事が……えっと、届け物があっただけで……」
由羅の勢いに押されつつもなんとか答える。
頑張ったオレ!!
「私に届け物?」
「そ、そう!あの、茶色い紙袋に入れてそこの受付に預けてあるから受け取っておいてくれ。それじゃオレは帰……っておい、離せってば!」
「受付に預けてあるんだろう?」
用事は済んだのでさっさと逃げ……いや、帰ろうとしたのだが、由羅に腕を掴まれて一緒に受付まで引っ張って行かれた。
「彼から預かったものは?」
「え?あ、はい、こちらです!」
「ありがとう」
呆気に取られている受付嬢から紙袋を受け取ると、今度はエレベーターに押し込まれた。
「ちょ、由羅!どこ行くんだよ!オレはもう帰……」
「ここじゃゆっくり話ができない。上まで来てくれ」
「上って?」
「私の部屋だ」
「由羅の部屋って……つまり……」
社長室ってやつですか!?
う~ん、早く帰りたい……でも、社長室には興味がある。
だって、たぶんオレには一生縁のない場所だろうから……
よし、チラッと見るだけ!チラッと見たらさっさと帰ろう!これは立派な社会見学だ!
「社長、その方が綾乃様ですか?」
「そうだ」
「ぅえっ!?だ、誰!?」
てっきりエレベーターの中は二人っきりだと思っていたので、驚いて咄嗟に由羅の腕にしがみつく。
恐る恐る声のする方を見ると、手帳に何やら書き込んでいた男が顔を上げた。
男の視線を感じて、オレは慌てて由羅から離れた。
やべぇ!会社の人の前で何やってんだオレ……
由羅は社長なんだし……オレみたいなのが馴れ馴れしくしてたらダメだよな……
「綾乃様、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。私は……」
男はオレの態度を気にする様子もなく、柔らかい口調で話しかけてきた。
由羅の秘書で、池谷 と言うらしい。
池谷は表情や物腰が柔らかい、優しい親戚のお兄さんという感じの男で、常に仏頂面の由羅とは正反対のイメージだ。
玄関ではオレは警備員や由羅から逃げようと必死で気づいていなかったが、どうやらこの池谷はずっと由羅の傍にいたらしい……
秘書って気配消す訓練でもしてんのかな……?
「池谷、私は今から昼休憩に入る」
「承知いたしました」
***
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