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〇〇の秋 第324話
「ごちそうさまでした」
「はいよ。あ、空になった弁当箱は持って帰るよ。んで、こっちは晩飯だからな。夜もちゃんと休憩して食えよ?」
オレは自分の鞄から折り畳みのエコバッグを取り出すと、空になった弁当箱を入れた。
晩飯用の弁当も作って来ていたので、それはランチバッグごと紙袋に入れたままにして由羅に渡す。
「晩飯まで持って来てくれていたのか」
「うん……まぁ、内容はほとんど一緒だけどな」
「栗ご飯か!?」
「そうだよ」
「そうか!」
由羅が嬉しそうに晩飯用の弁当箱を見つめた。
なんかこいつ……早弁しそうだな……
ま、何も食わねぇよりは食う方がいいけど!
でも今は……
「由羅、今日はまだ昼休憩の時間とれるのか?」
「ん?ああ、まだ大丈夫だ」
由羅がお茶を飲みつつ時計を見た。
いつもなら、だいたい由羅が食べ終えるのを見計らってすぐに誰かが部屋に入って来て通話が切れてしまう。
映像には映らないのでわからなかったが、たぶんあれは秘書の池谷 だったのだろう。
でも、今日は由羅が食べ終わったのに池谷が入って来る気配がしない。
「じゃあ、オレは帰るから、おまえはちょっと横になってろ」
「ん?」
「ん?じゃねぇよ。どうせろくに眠れてねぇんだろ?休める時に休んでおかねぇとまた倒れちゃうだろ!」
「……せっかく綾乃に会えたのに?」
「だから、オレはもう帰るって!」
そもそも、オレは弁当渡したらすぐ帰るつもりだったし!
「何か急ぐ用事があるのか?」
「う~ん、別に急ぎの用事は……まぁ、莉玖をお昼寝させるくらい?」
今日みたいにオレも杏里も出かける時などは、サチコが莉玖をみてくれている。
今から帰ったら、もう寝ちゃってるかな~……
「時間があるならもう少しだけ付き合ってくれ。どうせここで横になっても眠れないからな」
いや、おまえのそのクマ……家でも眠れてねぇだろ……
「由羅、眠れなくても横になって頭空っぽにして目閉じてろ。それだけでもだいぶ疲労がとれるらしいぞ?」
「頭空っぽは無理だ……」
「うん、そうだな。オレもそれは無理だわ」
頭を空っぽにするのは結構難しい。
だって、オレでさえ眠りに落ちる直前まで、毎日献立を考えて買いものリスト作って明日は莉玖と何して遊ぼうって考えて……常に何か考えまくっている。
だから、由羅が無理だっていうのも何となくわかる。
「……」
由羅がジト目でオレを見た。
なんだよ!?疲労がとれる云々は嘘じゃねぇもん!テレビか何かでそう言ってたし!……あんまり覚えてねぇけど!
「んん゛……とにかく!横になってみろって!ほら、ねんね!」
ちょっと強引に由羅を横に寝かせる。
が、子どもにしている感覚で何気なく由羅を膝枕していたことに気付いて、ちょっと慌てた。
「……あっ!違う!ごめん、あの……ちょ、ちょっと待って。由羅、一回起きろ。オレそっちの椅子に座るから!」
「別にこのままでいい」
「いや、だって……これ膝枕……」
「これがいい」
そう言うと、由羅はオレの腰に腕を回して抱きついてきた。
何が何でも膝枕を死守するつもりらしい。
「おまえがいいなら別にいいけど……首痛くないか?」
「大丈夫だ」
「そうですか……」
膝枕って、女の子の柔らかい太腿でしてもらうから嬉しいんじゃねぇの?
まぁ、これで寝てくれるならいいか。
由羅はよほど疲れていたらしく、目を閉じたと思ったらすぐに寝息が聞こえて来た。
何が「眠れない」だよ!秒で寝てるじゃねぇか!
「ったく……おつかれさん」
手持ち無沙汰だったので由羅の髪を軽く撫でていると、由羅が無意識に手を握って来た。
なんだよ、髪は触るなってか?どうせもうくしゃくしゃだけどな!
「――ご歓談中、失礼いたします。申し訳ありませんが少々急ぎの……!?」
「ヒェッ!?」
油断していたところに突然池谷が入って来たので思わず変な声が出た。
そ、そういえば隣の部屋にいたんだっけ……
何かの書類を持って来たらしい池谷だったが、オレたちの様子を一目見るとポカンと口を開けてしばしフリーズしてしまった。
「あ、あの……えっと……こ、これはですね……」
そういえば池谷さんはオレのことをすでに知ってるみたいだったけど、由羅はオレのことをどこまで話してあるんだ?
いや、どこまでもなにも、莉玖のベビーシッター兼家政夫ってことくらいだよな!?
うん、普通はそうだよな!?
で、弁当持って来ただけの家政夫に膝枕されて寝てるとかヤバくね!?
「あああの……お、起こしますね!?おい、由羅!起きろっ!起きてっ!」
いやマジで起きろおおおおおおお!!
とにかくこの状態はマズイと思い、慌てて由羅の身体を揺らす。
「あ、綾乃様!いけません!そのままジッとして!」
「ふぇっ!?」
「起こさないで下さい!」
「ふぁ、ふぁひっ!」
由羅を起こそうとしたのに、なぜか池谷に止められてしまった。
え、なんで?
「でもあの……由羅に用事なんじゃ……?」
今「急ぎの」って言ってたよな!?その書類急ぐんじゃねぇの!?
「そうですね……15分程してからもう一度伺いますので、それまではそのままで。よろしくお願いいたします」
「え!?ちょ……あの、待っ……」
聞きたいことはいろいろあったが、池谷は唇に人さし指を立てて「綾乃様、お静かに!」と念押しをして出て行ってしまった。
オレは一体何をよろしくお願いされたんだ!?
15分間このまま寝かせとけってこと!?
池谷さんはそれでいいのか!?
っつーか、これってどういう状況!?――
きっかり15分後に池谷が戻って来るまで、オレはテンパりすぎて思考停止し、ずっと頭を抱えたまま固まっていた……
***
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