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〇〇の秋 第328話

 ベッドに腰かけて携帯を弄っていたオレは、痺れを切らして扉を開けた。 「……そこの不審者、何やってんだ?早く入ってこいよ。おまえの部屋だろう?」  扉の前で室内(なか)の様子を窺っていた由羅に声をかける。   「私が入って大丈夫か?莉玖は?」 「あの後すぐに寝た。寝てるところ起こされたからちょっとビックリしただけだよ」 「そうか……」  由羅は今度は起こさないように、そっと莉玖の寝顔を見ると、すぐにベッドに戻って来てオレの隣に座った。 「一週間以上会ってなかったからな……」  由羅が大きなため息を吐いて、しょんぼりと項垂れる。  久々に莉玖に全力拒否されたのが余程ショックだったようだ。   「綾乃も夜中に起こしてすまなかったな」 「別にいいよ。オレはもともと起きてるつもりだったし」  ベッドが気持ち良くてウトウトしちゃっただけで…… 「ウトウト?いや熟睡しているように見えたが……」 「ウトウトなんだよ!」  たしかに一瞬、ほんの一瞬だけ爆睡したかもしれねぇけど、すぐに起きただろ!? 「そういうことにしておくか。ところで、姉さんのところで何かあったのか?昼に会った時には帰宅することなど何も言ってなかっただろう?」 「うん。あ、別に杏里さんたちと何かあったわけじゃないぞ?」 「なら、どうして……」 「あ~……えっと……昼会った時に由羅がまだ迎えに行けないって落ち込んでたから……莉玖の顔見たら元気出るかなと思って……あと、由羅が無理し過ぎてるみたいだから――」  オレと莉玖が由羅と離れて杏里の家でずっと待っていたのは、ひとりの方が仕事に集中出来ていいだろうと思ったからだ……(もちろん、杏里に引きとめられていたせいもあるけど)  決して食事と睡眠を削って仕事をするような無茶をさせるためにひとりにしたわけじゃない。  池谷(いけがや)が言うように、早く迎えにくるために無理をして倒れたら元も子もないからな。 「……それなのに、連絡してなくてごめん……黙ってたせいでなんか余計に疲れさせちまったよな……」  莉玖のことも、元気が出るどころか逆効果になっちゃったし……  先ほど、帰宅した時の由羅の様子を莉奈から聞いたオレは大いに反省していた。  莉玖を連れて帰宅していることを由羅に連絡しなかったのは、ちょっとしたいたずら心からだ。  少しくらい驚くかなとは思っていたが、まさか普段冷静でほとんど動揺しない由羅がそんなにテンパっていたとは……  そりゃ莉玖もびっくりして起きちゃうよな~… 「あぁ……まぁ、かなり驚いたから先に連絡は欲しかったが……」 「ですよね……」 「だが……」 「ん?」 「帰宅した時にこの家に莉玖や綾乃がいるのはいいな」 「寝てても?」 「寝顔でもいいんだ。いてくれるだけで嬉しいし、ホッとする。こうして手を伸ばせば綾乃に触れられるしな」  由羅の手が伸びて来て軽くオレの頬に触れる。  そりゃまぁ……画面だと、直接触れることは出来ないよな~……  と当たり前のことを考えていたら、無意識に由羅の手に頬を摺り寄せていた。 「っ!?」 「ん?」 「あ、いや……その……んん゛……綾乃、莉玖を連れて戻ってくれてありがとう。二人のおかげで疲れも吹き飛んだよ」  なぜか急に挙動不審になっていた由羅は、ひとつ咳払いをしてやけに嬉しそうに微笑んだ。   「あ、うん……ソレハヨカッタデス?」 「なぜカタコトなんだ?」  知らねぇよ!おまえが急に笑うからだろっ!?  オレは慌てて由羅から顔を背けた。 「何でもない!ほら、もう寝るぞ!」  あぶね……室内が薄暗くて良かった……  見慣れてるはずなのに……それでも由羅に笑いかけられるとたまに顔が熱くなるのは何なんだ…… ***

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