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〇〇の秋 第330話
「――ってな感じで、みんな由羅のこと心配してるみたいだぞ?」
「そうか……」
オレの隣に寝転んだ由羅が、うなじを掻きながら微妙な表情で呟いた――……
***
オレが由羅にお弁当を届けていた数日間、池谷 は毎回玄関から社長室まで送り迎えをしてくれた。(本当は由羅がしたかったらしいが、池谷に却下されたらしい)
そしてオレは、そのわずかな時間に毎回池谷からいろいろと由羅に対する愛ある不満や愚痴を聞かされていた。
池谷の目的は……オレを通してそれらを由羅に伝えてもらうこと。
オレの言うことなら由羅も聞くだろうからという考えらしい。
池谷さんはなんでそう思ったんだ?やっぱり何か気づいてるのかな……
っていうか、オレが言ったところで由羅が聞くとは限らないんですけど!?
恐らく池谷はなるべく早く伝えて欲しかったのだと思うが、なんせあの頃は由羅の帰宅時間が遅かったのでなかなか話す時間がとれず、結局オレが由羅に伝えることが出来たのは、しばらく経って仕事が落ち着いてからだった。
「由羅が思ってる以上に、由羅は社員から好かれてるってことだな。良かったじゃねぇか」
「前社長がアレだったからな。それと比べれば、たいていの人間がマシに思えるだろう」
「ひねくれてんなぁ~。それはそれ。これはこれだろ?社長として尊敬されてんだから、素直に喜べよ」
「もちろん、喜んでいる……が、社員にそこまで気を使わせていたということは、上に立つ者としてまだまだだな……」
仰向けになった由羅が天井を眺めながら自嘲気味に笑った。
「う~ん……そう思うなら、とにかく博嗣 関係のトラブルでももうちょっとみんなを頼ればいいんじゃねぇの?」
「頼っているぞ?」
「みんなからすれば、物足りねぇんだよ!」
だから部外者のオレが巻き込まれる事態に陥っているわけで……
「……そう言われてもなぁ……」
由羅が唸りながら考え込んだ。
由羅にしてみれば、自分が博嗣 関係のトラブル対応をしている間、他の業務は池谷さんたちにほぼ任せっきりになるため、もう十分頼りにしているということらしい。
後はまぁほとんど池谷さんが言っていた通りだ。
なんにせよ、本人に無理をしているという自覚がねぇのが困りものなんだよな~……
こんなの一体どうすりゃいいんだ……?
「う~ん……」
「どうした?腹でも痛いのか?」
どう言い聞かせればいいのかと頭を抱えて唸るオレを見て、由羅が心配そうな顔をする。
いや、頭抱えてんのになんで腹痛だと思ったんだよ!?
「例えばだけど、由羅は……もし社員のひとりが他の会社の人間から個人的理由で一方的に恨まれたとして、そのせいで大きな契約とかが急にダメになったりした場合には、その社員におまえの責任だからひとりで対処しろって言うのか?」
「ん?なんだそのめちゃくちゃな設定は……」
由羅が首を傾げた。
うん、ごめん。オレも言ってて意味わからん……
「だから、例えばだってば!もしそんな感じのトラブルがあったらどうすんのって話っ!」
「例えばか……そうだな……まず、何があったとしても社員ひとりに責任を負わせるようなことはしない。原因はどうあれ会社全体に関わってくる以上は、個人の問題ではなく会社の問題だから――」
意味不明なたとえ話だったにも関わらず、由羅はオレの問いかけに真面目に答えてくれた。
だけど、それなら……
「……それなら、お前と博嗣の件も同じじゃねぇの?」
「……え……?」
難しい顔をしていた由羅がちょっと眉を上げてオレを見た。
「いや……私と彼らとでは立場が違……」
「黙らっしゃい!会社全体の問題は会社全体で対処するんだろ!?博嗣からの嫌がらせにしても、会社にしてくる以上はおまえ一人の問題じゃねぇんだから、みんなで対処していけばいいんだよ!」
「……だが……」
「だがもへったくれもねぇよ!次になにかあった時は、池谷さんたちと相談してちゃんと仕事を振り分けろ。これでもまだ性懲りもなく次も今回みたいな状態だったらおまえは部下の声を聞かないワンマン社長ってことになるからな!?そんなの博嗣と同じじゃねぇか!!」
「なっ!?私は……いや……そうだな、わかった。池谷たちともう一度じっくり話してみる」
オレの勢いに負けて由羅が渋々ながらも折れた。
うん、オレ自分が何言ったのか覚えてねぇけど、とりあえず言質 は取った!!
***
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