335 / 358

〇〇の秋 第332話

 翌日は久々に由羅が休みを取れたので、オレは家の中を大掃除することにした。 「休日なのに大掃除するのか?」  朝食後、食器を洗いながらそのことを話すと、由羅は渋い顔をした。 「だって、しばらく家空けてたし、戻ってからも由羅の帰りが遅かったから掃除は後回しになってたしな」 「……すまない……」 「いや、別に由羅を責めてるわけじゃねぇよ。でも休日はオレの好きなことをしていいって約束だろ?だから今日は好きなだけ掃除に専念させてもらいます!」  由羅が休みということは、オレもベビーシッター兼家政夫の仕事は休みだ。  だから、由羅としては家のことはせずに身体を休めろと言いたいらしいが、休日の過ごし方については以前由羅と話し合って、オレが休日をどう使おうと文句は言わないと約束をしたのだ。 「たしかに約束したが……なら、私も何か手伝おう」 「マジで!?助かるぅ~!じゃあ、由羅は莉玖を連れて散歩に行ってきてくれ!」  オレはにっこり笑って由羅にお出かけセットを渡した。  いい天気だし、親子水入らずでお出かけしてこい!  オレはひとりの方が掃除も捗るし、由羅親子の仲も深まるし、一石二鳥! 「え、いや、そうじゃなくて……私も掃除を……」 「おしょと!?り~ちゅん、いく!」 「ほら、莉玖も行く気になってるし」  オレたちの会話を耳聡く聞きつけた莉玖が、お出かけに持って行こうとおもちゃを手当たり次第にリュックに詰め込み始めた。   「莉玖、お外に行くのはちゃんと準備してからだぞ~?」 「あい!」 「まず、おトイレだ!」 「あい!」 「ほら、パパ。おトイレついて行って!おまるは莉玖が自分で出して来るから、座る時に足の上に置かないように気を付けてやって。たまに指挟んだまま乗っちゃうから。あ、紙パンツとズボンは自分で穿けるから、前後の確認とかだけよろしく!」 「ハイ!――」  オレは由羅家に来た時から、なるべくオムツ交換の時には出ても出なくても莉玖をに座らせるようにしていた。おまるに慣れてもらうためだ。  タイミングが合えばたまに成功することもあるが、まだ数える程だ。  それでも、遊び、食事、お出かけ、お風呂、睡眠……などの一つ一つの行動の前後には必ずトイレに行くように習慣づけているので、莉玖は今では自分からおまるに座りに行くようになった。  莉玖もだいぶ足元がしっかりしてきたし、そろそろ本格的にトイトレをしなきゃだな!    由羅が莉玖を追いかけて行くのを見送って、オレは莉玖のリュックにパンパンに入っていたレゴや積み木を少し取り出し、隙間におやつとお茶を入れた。  うん、結構重い。  でもまぁ、莉玖が自分で背負ってみないと納得しないだろうしな。  『魔の2歳児』と言われる程のいわゆる『イヤイヤ期』……  莉玖はまだ本格的なイヤイヤ期は到来していないと思うが、それでもいろいろと難しいなのだ。 ***  戻って来た莉玖にリュックを背負わせると、最初は「おもない(重くない)だいじょび(大丈夫)よ!」と見栄を張っていたが、しばらく背負わせて様子を見ているとやはり重たくなったらしく、渋々おもちゃを減らし始めた。 「うん!おもない(重くない)ね!あ~の、いこー!」  改めてリュックを背負い直し、軽くなったことに満足した莉玖がにっこり笑ってオレの手を引いた。 「あ、莉玖。今日はパパがお散歩連れて行ってくれるって!」  莉玖に帽子を被せながら説明をする。   「あ~のは?」 「綾乃はお掃除しなきゃだから、お留守番してるよ。美味しいご飯作って待ってるから、パパといっぱい歩いてきてくれ。そうだ!公園に連れて行ってもらったらどうだ?莉玖の好きな滑り台、上手に滑れるところをパパに見せて……」 「……あ~の……いっちょいくよ……」  莉玖が泣きそうな顔で呟いた。  おっと……雲行きが怪しくなってきたぞ? 「あのね、パッパね、あ~のもいっちょね~って、いったのよぅ!?」  莉玖が唇を尖らせ、恨めしそうな顔でパパを指差した。 「……ん?パパが綾乃も一緒に行くって言ったのか?そうか~……ちょっとそこのパパ~?どういうことかなぁ~?」  オレが笑顔のまま背後の由羅を見ると、由羅はわざとらしく顔を背けた。  こらっ!こっち向けっ! 「あ~……それは……その……莉玖が綾乃も一緒がいいって言うから……私も「そうだな」って……」 「パパ~?オレの話聞いてた~?」  オレは今日は掃除するって言っただろっ!? 「もちろんだ!だが……綾乃も莉玖のには勝てないはずだ!」 「アレ?」  って、なんのことだ?  オレが首を傾げていると、莉玖がツンツンと服を引っ張って来た。 「あ、待たせてごめんな、莉玖。えっと、だから今日は……」 「あ~のもおしょといこ?り~ちゅん、あ~のとおててちゅなぐの!ね~!」  莉玖がコテンと小首を傾げ、上目遣いでオレの手を握るとにっこり笑った。 「グハッ!」  莉玖にハートをぶち抜かれたオレは床に崩れ落ちた。  莉玖……恐ろしい子っ!!  そんなあざとい技、誰に教えてもらったんだ!? 「ん゛~~~~~っ……くそぉ~!負けましたっ!」  こんなん勝てるかぁああああああああっ!! 「ほらな?」   ***

ともだちにシェアしよう!