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〇〇の秋 第334話

「……なぜ滑り台だけであんなにずっと遊んでいられるんだ……」  家に着くと、由羅はオレが差し出したお茶を一気に飲み干し、大きなため息と共にボソリと呟いた。  途中休憩は挟んだものの、莉玖は公園にいる間ずっと滑り台で遊んでいたのだ。 「う~ん、なんでだろうな?でも、何回もやりたがるのはだぞ?」 「ん?どういう意味だ?」 「そのまんまの意味だよ。大人だって一緒じゃね?イヤなことは何回もしたいと思わねぇだろ?だから、莉玖が何回もするってことは、それだけ滑り台のことが好きでめちゃくちゃ楽しんでるってことだと思うぞ?なぁ、莉玖?」  オレは昼飯の支度に取り掛かりつつ、由羅の隣でお茶を飲んでいる莉玖に話しかけた。 「あ~い!」 「滑り台好きだもんな~!」 「しゅべるだい、ちゅきよね~!」  莉玖が「ね~!」と同意を求めるように、隣からすごい角度で由羅の顔を覗き込む。   「なるほど……だが、それにしても限度があるだろう?莉玖は飽きないのか?」  由羅は莉玖につられて小首を傾げ、莉玖の頭を軽く撫でながら問いかけた。 「り~ちゅん?」 「そりゃ莉玖だって飽きるよ。いや、飽きるっていうか……う~ん……子どもはアジサイよりも移り気なんだ。あれだけ繰り返し遊んでいても、次の日には全然興味を持たないこともある」 「全然!?」 「うん」  子どもたちが取り合うくらい気に入って遊んでいたからと、翌日もその遊びを用意したところ、全然遊んでくれなかった……ということは保育園ではよくあることだ。  生まれてからたった数年の子どもにとっては何もかもが目新しいものなのだから、移り気になるのも仕方がない。 「移り気……?莉玖はブランコや砂場には全然興味を持っていなかったぞ?」 「それは……今日は滑り台しか目に入らなかったってだけだよ。ブランコや砂場に連れて行けばそっちで遊ぶぞ?」 「え!?じゃあ、今日滑り台ばかりで遊んでいたのは……」 「パパが他の遊具に連れて行かなかったからだな!」 「私のせいだったのか……」  由羅がショックを隠し切れない様子で顔を覆った。 「もぉ~!パッパぁ~?メッ!」  そんな由羅に、ちょうど莉玖がタイミングよく「パパダメじゃ~ん!」とでも言うような軽いノリで止め(とど)を刺しにきた。  ちょっとギャルっぽいノリなのは、たぶん最近色気づいて来た杏里のところの双子ちゃんに影響を受けているのだろう。   「ぅぐっ……すまない……だが!それならそうと、お前たちもひとこと教えてくれればよかったのに……!」  由羅がちょっと不貞腐れたようにオレと莉玖を見た。 「いやいや、パパさん?今日のオレはオフですよ?莉玖に頼まれたから一緒について行ったけど、オレはあくまでただの付き添いだ。莉玖をどう遊ばせるかは親のおまえが決めることだろう?」 「それはそうだが……」 「それに、こういうのも経験だし!パパも一度くらい莉玖の「もっかい!」攻撃を受けておくのもいいだろうと思ってさ!」  普段はオレが莉玖のあらゆる「もっかい!」の相手をしているので、休みの日くらいは由羅にも味わわせてやらねぇとな!オレってば優しい!  いろんなことに興味や関心を持って何度も繰り返し取り組むのは子どもの成長発達の上で大事なことだが、その相手をするのはかなり大変なのだ。 「そうだな……根気と忍耐と体力が必要だと改めて感じた……根気と忍耐はある方だと思うが、差し詰め今の私には体力が足りない。またジムにでも通うか……」  由羅が莉玖を見ながら苦笑いをした。  以前はジムに通っていたようだが、今の会社を任されてからは会社を立て直すのに忙しくてしばらくは通えていなかったらしい。  そのくせ由羅って結構筋肉ついてんだよな……服を着てるとそうは見えないけど……  いわゆる脱いだらすごいんですってやつ?  ズルイ!! ***

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