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働くパパはカッコいい? 第336話
「あぁ……もうインフルエンザ以外にもいろいろ流行ってきてるんだな。莉玖も気を付けておかなきゃ……」
11月のある日。
オレはリビングの窓を拭きながら、テレビのニュースを見てぼんやりと呟いた。
莉玖を起こさないよう消音にして字幕で見ているため、気になるニュースがあると手が止まってしまう。
『そうね~、インフルエンザの予防接種はしたけど、それ以外にもいろいろ感染症が流行って来てるみたいね~』
莉奈 はオレに相槌を打ちながら、心配そうな顔で莉玖を覗き込んだ。
莉玖はまだ保育園に通っていないので、集団生活をしている子に比べれば感染症にかかるリスクは少ない。
でも、最近は公園で遊ぶ回数も増えて来て他の子どもとの接触も増えてきたので、油断はできないのだ。
「インフルの予防接種も2回目はまだだしな。手洗いうがいはいつも以上に念入りにして……換気と加湿は空気清浄機でできるけど、やっぱりたまには窓も開けて……」
『ねぇねぇ、綾乃くん』
「ん?」
『風邪予防について考えるのは大事だけど、ひとまずそれは後にして、今はちょっと寝ておいた方がいいんじゃないの?昨夜は綾乃くんあんまり眠れなかったでしょ?莉玖、この調子だとお昼寝しないかもしれないわよ?』
「あ~……そうだよな。これだけ寝ればお昼寝しないだろうな~……」
オレはベビーサークルの中でスピスピ眠っている莉玖に苦笑いをした。
***
最近はあまり夜泣きをしなくなっていた莉玖だが、昨夜は怖い夢でも見たのか久しぶりに大声で泣いて目を覚ました。
寝ぼけているならすぐに寝るかも……と、淡い期待を抱いたが全然泣き止まず、由羅と交代であやすこと2時間弱。
ようやく泣き声が小さくなってきたので、このまま泣き疲れて眠るかと思ったのに、泣き止んだ莉玖は今度は「あ~の!まんま、いる!おににり、たべよ?」と元気に笑った。
おぅ……そうだな、泣いたらカロリー消費するから腹減るよな……!ハハハ……ハァ……
まだ朝飯にはだいぶ早かったが、どうせ莉玖は寝そうにないし、オレも弁当を作るためにそろそろ起きる時間だったので、寝かしつけるのは諦めて莉玖をつれて1階に下りた。
莉玖はリビングのベビーサークルの中で寝転がると「る~る~」と謎の鼻歌を歌いながら機嫌良くおもちゃで遊び始めた。
莉玖、もしかしてお腹空いたんじゃなくて、遊びたかっただけか?
まぁ、この調子なら朝飯はもうちょっと後でもいいかな……あんまり早く食べると、変な時間にお腹空いちゃうしな~……
とりあえず、いつ「たべる」と言われても大丈夫なように、莉玖用のミニおにぎりを用意してから、由羅のお弁当作りに取りかかった。
それからしばらくして、スーツに着替えた由羅が下りて来た。
って、もう着替えてんの?まだ外は薄暗いですけど!?
「随分ご機嫌だなぁ、莉玖」
由羅はベビーサークルに入ると、呆れ顔で莉玖のお腹をポンポンと撫でた。
「ぱっぱぁ~!みって~!ど~たん!」
莉玖が嬉しそうに由羅に動物パズルのぞうさんのピースを見せる。
「ぞうさんか。ぞうさんはどこに入るんだ?ここか?」
「ここ~?ん~……ちだうのね~……こっちよぉ!」
「そうか。莉玖は上手だなぁ」
「ど~じゅ~!」
「ところで、パズルが上手な莉玖くん、このままもうちょっと寝ないか?パパも綾乃も眠たいんだが……?」
由羅が莉玖の隣でゴロンと横になり、莉玖を寝かしつけようと試みる。
が……
「ねんね、ないっ!」
「ないか~……」
力強く「ない!」と言い切られて、由羅はがっくりと肩を落とした。
少し前まで莉玖と由羅はしばらく会っていなかったせいでよそよそしかったが、3人で公園に行ったあの日以来、莉玖の中で「この人 は遊びの相手をしてくれる人だ!」と上書きされたようだ。
と、それはともかく……
「ゆ……パパはもうちょっと寝て来いよ。まだ早いぞ?」
「いや、さすがにもう目が覚めた」
寝不足だと車の運転が心配なので、莉玖を連れて部屋を出る時に由羅には少し横になっておけと言っておいたのだが、結局眠らずにしばらく仕事をしていたらしい。
「それでちょっと気になるところが見つかったから、今日は早めに出ようと思うんだが……」
「え、早めって何時に出るんだ!?」
まだ時間があると思っていたのでちょっと焦る。
「そうだな……弁当はあとどれくらいで出来そうだ?」
由羅が部屋の時計を見てちょっと考えながらオレの手元を見た。
弁当が出来次第ってことか?
「えっと、弁当は……あとはおかずを詰めるだけだし、朝飯ももうすぐ出来……あ、味噌味噌!」
オレは朝飯用に作りかけだった味噌汁に慌てて味噌を溶かし込んだ。
あぶねー!味噌汁じゃなくて、ただの汁になるとこだった!
「あ゛……ごめん由羅!今の嘘!」
「ん?」
「弁当のおかず、まだ熱いからもうちょっと冷ましてからじゃねぇと……」
弁当箱におかずを詰めかけて、まだおかずが熱いことに気付いたオレは思わず手で扇いだ。
どうしよう。あとは詰めるだけなんだけど、ちゃんと冷ましてからじゃねぇと……あ、でも保温弁当箱なら熱くても大丈夫か?よし、入れ替えるか!
「綾乃」
「ちょっと待って、保温弁当箱に変えるから。え~と、朝飯はどうする?車の中で食べられるようにおにぎり作ろうか?」
「おい、少し落ち着け!」
「ぅにゅ!?」
ひとりで焦ってバタバタしていたオレの頬を由羅が片手でムニッと掴んだ。
「急かすつもりじゃなかったんだ。すまない」
「ふにゅ……」
あの、その手を退けてくれないと返事できないんですけど……?
「朝飯は食ってから行く。朝飯も弁当も出来るまで待つから焦らなくていい。わかったか?」
「ぅにゅ!」
「ちなみに、入れ替えなくてもその弁当箱も保温弁当箱のはずだぞ?」
「ヴぇ!?……――」
***
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