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働くパパはカッコいい? 第337話
『いや~、今朝の綾乃くんはだいぶテンパってたわね~』
莉奈がクスクスと思い出し笑いをした。
「だよな……」
自分でもテンパりすぎだったと思う。
でもさ~、あれは仕方ねぇんだって!
だって、前は由羅が「早めに出る」って言う時は大抵朝飯を食わずにすぐに家を出ることが多くて、慌てておにぎりを作って無理やり持たせる感じだったし……
だから今日もそのパターンかと思って……
『そういえばちょっと前まではそうだったわね』
「だろ?……ん?」
莉奈と話していると、家の電話が鳴った。
窓を拭いていた雑巾を放り投げて、莉玖を起こさないように急いで2コールで出る。
「はい、もしも……」
「あぁ、私だ」
「“ワタシ”さんですか?」
なんとなく由羅の声に似ているが、電話だと普段の声とは違って聞こえるし、声なんていくらでも加工できる。
よくあるオレオレ詐欺系かもしれないので、わざとふざけた返事をしてみた。
そもそも由羅ならオレの携帯にかけてくるはずだしな!
オレは騙されねぇぞ~!?
「……綾乃……」
電話の向こうでちょっと呆れたようなため息が聞こえた。
「はい?」
あ……れ?……やばっ!これは、もしかしなくても由羅さんじゃないですかっ!?
「あの~……」
「私はそこの家主で、綾乃の雇い主で、自称恋人でもある由羅だが……」
「はい、ごめんなさい!存じております!今のはちょっとした防犯対策だから、悪気があったわけじゃなくて、も、もちろん由羅だろうな~とは思ったんだけど、一応な!?うん、一応!用心しないとじゃんか!?」
「ほぅ……?」
「……あ、え~と、どどどどうしたんだ?固定電話 にかけて来るとか珍しいな!」
オレは急いで話を逸らした。動揺しすぎて声が裏返りまくる。
って……ん?自称……なんだって?
「綾乃の携帯にかけたが出なかったから、家に電話しただけだ」
「へ?」
鳴ったっけ?
由羅に言われて慌てて携帯を探す。
ポケットに入ってると思ったのに……ない。
「あれ!?携帯……どこに置いたっけ……?」
『綾乃くんの携帯なら寝室にあったわよ!充電してるみたいだったけど?』
莉奈がそっと教えてくれた。
オレがキョロキョロしている間に、家の中で置き忘れていそうな場所を見回ってくれたらしい。
莉奈さん便利!……じゃなくて、感謝!!
「あ、そうだった!寝室だ!ごめん、朝持って下りるの忘れてた!」
いつもなら携帯を持って下りるのに、今朝は寝ぼけていたせいか携帯を持たずに莉玖だけ連れて部屋を出たんだった……
「あぁ……そういえば充電していたな」
「あの、心配かけてごめん……」
「お前たちが無事ならいい」
由羅の声がホッとしたように優しくなった。
「……うん……」
携帯に出なきゃ何かあったのかって思うよな……今までも何回かそれで由羅に心配かけてるし……
「それで、莉玖はどうしてる?」
「え?ああ、莉玖なら……超ご機嫌で爆睡中だぞ!」
「今かっ!」
「今だっ!」
「そうか……今寝てるのか……」
「うん……今寝てる……ブハッ!」
「ふ、はははっ……」
由羅の恨めしそうな声に思わずオレが吹き出すと、由羅もつられて笑った。
『あら、なんだか楽しそうね~』
いや、別に楽しいわけじゃねぇけど……
だって、あれだけ夜中にふたりがかりで寝かしつけても寝なかったくせに、朝飯食ったら満足したのか、ごちそうさまを言う前にグースカ寝ちゃってたんだぜ……?
なんていうか……ね?
もう笑うしかないって感じ?
「(ん?……あぁ……わかっているが、もう少しくらいいいだろう!?……わかった……)んん゛、ところで綾乃、本題だが……」
電話の向こうで誰かとやり取りをしている声がして、由羅がわざとらしい咳払いをした。
由羅が駄々をこねているということは、相手は池谷さんだな。
本題ってことは、莉玖の様子を聞いたのはついでってことか?
「本題って、なんだ?」
「実は――……」
***
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