342 / 358

働くパパはカッコいい? 第339話

 そんなこんなで、何とか無事に由羅の会社に到着したわけだけど……  さて……どうやって封筒を渡すか……  電話を切る時、由羅はこれから別の会議が入ってるって言ってたんだよな。何かあれば気にせずに連絡してこいとは言ってたけど……あれからだいぶ経つし、もう会議終わってるかなぁ~…… 「あ~の?いこ~?」 「あ、うん。そうだな!それじゃとりあえず入ってみるか!」  考え込んでいても仕方ないので、ひとまず中に入ることにしたのだが…… 「あの~……あれは……?」  オレは入ってすぐに莉玖と立ち止まり、もうすっかり顔見知りになった警備員の顔を見た。  やけに着飾った女性が、受付の女の子たちを甲高い声で怒鳴りつけていたのだ。 「ぴゃっ!?」  莉玖が怒鳴り声に驚いてオレの足にしがみついたので、抱き上げて背中を撫でる。 「よしよし、莉玖。大丈夫だぞ。ここにいれば怖くないからな~」 「あれはアポなしで来られた方です。うちはどんなにお得意様だろうとアポなしの場合はお通し出来ないので……特に社長をご指名の場合は……」 「あぁ……」  オレが初めて来た時にも受付で全然取り合ってもらえなかったが、あれはオレの見た目から不審者扱いされたとかではなく、誰であっても対応は同じなのだとか。(まぁ、多少見た目も関係あったとは思うけど……)  そうなったのは、主に博嗣(ひろつぐ)のせいだ。  博嗣やその周辺の人間がアポを取らずに急に押しかけて来ては由羅に無理難題を押し付けていったり、由羅の婚約者とか言うのが押しかけて来ては仕事の邪魔をしたりスパイ行為をしたり……というトラブルが相次いだため、どんどん厳しくなっていったらしい。  ちなみに、今騒いでいる人も自称由羅の婚約者なんだとか……  由羅には一体何人婚約者がいるんだ……? 「まぁ、あくまでですからね」 「あはは……」 「そもそも、常識のある人ならちゃんと事前にアポを取るはずですから」 「あ……はい、そっすよね……」  オレも初めての時はいきなりアポなしで来ちゃったので耳が痛い話だ。  常識なくてすみません……あ~もう!穴があったらハイリタイ……! 「あ~の?よちよち!」 「あ、もちろん、確認が取れたらちゃんとお通し出来ますからね?」  項垂れて顔を覆うオレを莉玖がよしよししているのを見て、警備員が慌ててフォローをしてくれた。  オレの時は、由羅となかなか連絡がつかなかったせいで余計に怪しまれてしまったのだ。 「いや、でもオレももうちょっと常識を身につけなきゃ……ホント社会人としてダメっすよね……――」 *** 「ところで、今日はどうしたんですか?久々にお弁当ですか?」 「あ、そうだった!今日は由羅の忘れ物を届けに……あの、由羅から電話があって持ってきてくれって言われたから、受付にも連絡してあると思うんですけど……」 「ははは、綾乃様はもうそんなの気にする必要ないですよ」 「え?あ~……まぁそうなんですけど……」  実はオレが初めてここに来た日、後から由羅が「彼が来たら社長室に通すように」と、受付と警備員に話してくれたらしく、今ではオレは特別にいつでも“顔パス”で入れるようになっている。  とは言え、スーツ姿ばかりの中にパーカーとジーンズ姿という明らかに部外者のオレがひとりで社内をウロウロしたり、社長室に出入りしたりするのは、いろんな意味で目立つ。  “顔パス”のことを知らない社員にしてみればオレはどう見ても不審者なので、社員を困惑させないためにも一応受付から社長室に連絡してもらって、池谷さんに迎えに来てもらうようにしていたのだ。 「ですが、今は受付には近づかない方がいいので、今日はもうそのまま社長室へ……」 「そうですね……あ、莉玖!?ちょっと待って!」  そっとエレベーターの方に歩き出した途端、莉玖が何かに興味を惹かれたらしく、急に繋いでいた手を振り切って走り出した。  会社の中なので、多少油断していたことは否めない。    まぁ、外と違ってそんなに危険なものはな……あるぅううううううううう!! 「莉玖!前見て!止まって!すと~~~っぷ!」 「ぶにゃっ!!」 「キャッ!?」 「あちゃ~~……――」 ***

ともだちにシェアしよう!