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働くパパはカッコいい? 第342話
「おじゃましま~~す……」
久々に来た由羅の部屋に、何となくドキドキしながら足を踏み入れる。
なんていうか……社長室 に入る時って校長室に呼び出された感があるんだよな……いや、さすがに校長室に呼び出されたことなんてないけどな!?
ソファーに腰かけたオレは、さっそく池谷に話を聞くことにした。
だが……
「池谷 さん、さっき言ってたことって……わっ、ちょ……」
「あぁぁあのぉぉおぅ!いやいやよぉおおう!り~くんだっこよぉおおお!」
池谷に話しかけながら莉玖の顔を拭くために少し抱き直そうとした瞬間、また先ほどのように知らない人に預けられると思ったのか、ふくれっ面で口唇を尖らせた莉玖がオレの顔を両手で挟んで涙と鼻水だらけの顔をぐりぐり押し付けてきた。
おおぅ……!?
「ぶへっ!莉玖、ちょっと待って!落ち着こう!抱っこしてるぞ!?綾乃が莉玖を抱っこしてるんだよぉおお!?ちょっと顔拭きたいだけだから!ほら、鼻水拭こう!?な!?」
「いやぁああのぉおお!だぁああっこおおおお!!」
ティッシュを目の前でフリフリしてみるが、莉玖は「ぜったいはなれないもん!」と必死にしがみついてくる。
ダメだこりゃ……莉玖が落ち着くまでは話は無理だな……
「綾乃様、お話は社長が戻って来てからにしましょうか。おしぼり持ってきますね」
「……ふぁ~ぃ……」
オレは池谷に苦笑いで返事をして軽く息を吐くと、莉玖をぎゅっと抱きしめた。
「よしよし、莉玖ごめんな。怖かったよな――」
***
ようやく莉玖が落ち着き、涙と鼻水でベチャベチャになった顔をおしぼりで拭いているところに由羅が戻って来た。
「あ、おかえり~」
「ぱっぱぁ~!」
号泣していたとは思えないほどスッキリした顔の莉玖が由羅に手を振った。
「ただいま。莉玖、機嫌は直ったか?」
「ちょうど落ち着いたところだ」
「そうか。よし、莉玖!パパのところにおいで」
「いぃ~やっ!」
莉玖は由羅が抱っこしようとすると、プイッとそっぽを向いてオレにしがみついた。
「ぶふっ!」
「……池谷、何がおかしいんだ?」
「いえ、別に?」
思わず吹き出した池谷は、由羅が振り返ると一瞬で表情を引き締めた。
さすがとしか言いようがないが、笑ったのはバレているので意味がない気もする。
「池谷、私にもおしぼりをくれ」
「はい、どうぞ」
「あとはもういいぞ。昼休憩に入る」
由羅はおしぼりを受け取ると、池谷をシッシッと追い払う仕草をした。
「ふふっ……はいはい、それでは失礼いたします――」
池谷は今度は誤魔化すこともなく、クスクス笑いながら出て行った。
***
「あの……由羅、ごめん!さっきの女 、大丈夫だったか?オレのせいで……」
「綾乃、腹減らないか?」
「へ?」
由羅はおしぼりを畳みながら、全然違う話でオレの言葉を遮った。
「もう昼だぞ。何かデリバリーでも頼むか」
言われてみれば、もう時計は12時を過ぎていた。
って、いや今はそんなことより、さっきの話を……
「昼飯を食べながらでも話はできる」
……それもそうか。
由羅は昼休憩が短いし、午後から会議って言ってたからちゃんと昼飯食べさせねぇと!
「じゃあ食いながらで……あ、デリバリーは頼まなくて大丈夫だぞ。昼飯ならあるから!」
「ん?お弁当を持って来ていたのか?」
「うん。今日は天気がいいから、由羅に封筒を届けたら帰りに公園にでも寄って莉玖と食べようかと思って……」
「……公園で?莉玖と?」
「う……ん?」
急に声が低くなった気がして由羅の顔を見ると、なぜか由羅の眉間に皺が増えていた。
なんで怒ってんだ?
「なぜ公園で食べるんだ?」
「え?天気がいいからピクニック気分で……」
「ここで食べればいいだろう?」
「あ~、いや、最初はもっと早く着く予定だったし、由羅が午前中も会議があるとか言ってたから……」
封筒だけ渡したらさっさと帰るつもりで……
「早く着くと言ってもそんなに大差はないだろう?昼まで社長室 で時間を潰せばいいじゃないか」
「……って言われても……」
社長室 で幼児にどう時間を潰せと……?
「綾乃のことだから、多少時間を潰せるくらいのおもちゃは持ってきているだろう?」
「そりゃまぁ……」
「綾乃が来るのも久しぶりだし、莉玖に至っては初めて来たんだぞ!?せっかくだから一緒に昼飯を食べていこうとか思わなかったのか!?」
「え~と……つまり、一緒に食べたいんだな?」
「食べたい!」
由羅が必死すぎて怖いです……
「わかったわかった!ごめんってば!結果的に一緒に食べられるんだからいいじゃねぇか!ほら、自分の弁当持って来いよ!」
「それはそうだが……――」
由羅はまだブツブツ言いながらも、弁当を持ってきてオレたちの隣に座った。
***
「ぱっぱぁ、おばんちょ ?」
莉玖が由羅のお弁当箱を指差して由羅の顔を覗き込む。
「ああ、パパのお弁当だ。これも綾乃が作ってくれたんだぞ。パパも一緒に食べていいか?」
「い~やっ!」
「……イヤかぁ……」
由羅は莉玖に笑顔で拒否られて、ガックリと肩を落とした。
「莉玖、そこは「いいよ~」って言ってやれ。パパ泣いちゃうぞ?」
「い~よ~?」
「そうそう、莉玖はいい子だなぁ!パパも一緒に食べようねって!」
「ぱっぱぁ、いっちょ、たべちてね~!」
「うんうん。みんなで食べた方がおいしいからな!」
「莉玖はまたパパイヤ期なのか……?」
「う~ん……パパイヤっていうよりは、もうそろそろイヤイヤ期だからな。とりあえずなんでも「イヤ」って言いたいんだよ」
「そうか……」
「はい!それじゃあ、食べようか!おててを合わせて、いただきま~す――」
「いちゃまちましゅ!」
「いただきます……」
いじけている由羅の相手をするのが面倒だったので、ちょっと強引に「いただきます」を促した。
食べ始めると2人ともご機嫌になって、美味しそうにお弁当を頬張った。
由羅も莉玖も食べ物で機嫌が直るところはよく似てるんだよな~……
***
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