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働くパパはカッコいい? 第345話

「綾乃、帰ったら……覚えてろよ?」  由羅がオレの顔を覗き込んできて、ボソリと呟いた。 「ひえっ!?」  な、なに!?由羅さん目が怖いんですけど!? 「待て待て!落ち着け!えっと、ちがくて……だって莉玖がいつ起きるかわからないだろ?起きた時に目に入って来るパパの姿が寝転んで仕事してるのと、そうやってちゃんと座って仕事してるのとで印象はだいぶ違うぞ?な!?」  だいたい、寝転んで仕事してる姿なんて家でも見せないだろ!? 「っつーか、オレはそこまで言うつもりだったのに、由羅が最後まで聞いてくれなかったんじゃねぇか!」  つまり由羅のせいだろ!?オレ悪くねぇもん!!  オレが口唇を尖らせると、由羅がちょっと考えるように首を傾げた。 「……私は最後まで聞いたと思うが?」  いや、聞いてない!途中だった! 「そうか?……ふむ……それにしても……~~~~おい池谷(いけがや)!笑い過ぎだ!」  由羅が、こちらに背中を向けて大爆笑している池谷の足にティッシュの箱を投げつけた。  いつも冷静で穏やかな池谷からは想像できないくらいの大爆笑っぷりだ。  池谷さんって結構笑い上戸なのかな?  って、それよりも…… 「由羅!なに投げてんだよ!池谷さんに当たっただろ!?」 「当てたんだ!」 「もっと悪いわ!」  オレと由羅が言い合いをしていると、池谷はにこやかに箱を拾い「綾乃様、大丈夫ですよ。これはただの照れ隠しですから」とテーブルに箱を置いた。   「照れ隠し?」 「池谷、余計なことを言うな!」 「すみませっ……ぶっふふっ……」 「池谷っ!」 「はい!んん゛、次の……ふふっ……しょ、書類で……あっ!――」  池谷が次の書類を由羅に渡そうとしたところに、ちょうど仕事の電話がかかってきた。  池谷が急いで深呼吸をし、なんとか笑いを堪えて電話に出る。  そんな中…… 「んん゛う゛~~~~っ!!」  莉玖がおっさんのような唸り声をあげて目を擦った。  まぁ、さすがにこれだけ騒いでいれば莉玖も目を覚ますよな~……  お昼寝を邪魔された莉玖がぐずったので、オレはこれ幸いとばかりに由羅から莉玖を抱き取り、「仕事の電話だろ?邪魔しちゃ悪いし、オレたちはそろそろ帰る!」と、慌てて部屋を飛び出したのだった。 *** 「――いや~、今日はいろいろあったな~」  オレはシャワーを止めて、莉玖に話しかけた。   「プハッ!……な~!」  髪を洗った莉玖は顔にかかったお湯をぷるぷると両手で撫で払うと、オレの顔を見上げてニカッと笑った。 「あ~のも~!」 「それじゃ次は莉玖が綾乃の髪を洗ってくださ~い」  ちょっとお辞儀をするようにしてシャンプーを乗せた頭を莉玖に差し出す。 「あ~い!ごっちごっち!」  莉玖が小さい手でわしゃわしゃとオレの髪を洗い始めた。 「お~、莉玖上手だぞ~!てっぺんばかりじゃなくて、後ろの方もゴシゴシしてくれるかな~?」 「あ~い!り~くん、ど~じゅね~!り~くんも、ごっちごっち!ちれ~になるましゅね~!」  鼻歌まじりで調子に乗ってきた莉玖は、泡がついた手でついさっき洗い終わったはずの自分の頭もゴシゴシ……    あらら、莉玖ももう一回洗い流さなきゃだな!   「そんじゃシャワーで流すぞ~」 「あ~ん、り~くんしゅるの~!」 「お?流すのも莉玖がしてくれるのか?んじゃしっかり持って……そうそう。それじゃあ、いいか?お湯出すぞ~?」 「あ~い!」  シャワーの勢いで転ばないように莉玖を支えつつ流し合いをしていると、突然浴室の扉が開いた。 「楽しそうだな」 「うぎゃ!?」 「ぅぶっ!?ちょ、莉玖止めっ……誰だ!?」  驚いた莉玖が手を振り回し、オレは目を開けた瞬間に泡とお湯が目に入ったせいで軽くパニクっていた。  もうめちゃくちゃだ。  なんだ!?痛くて目が開かない!誰が入ってきたんだ!? 「私だ。ただいま。ん?……莉玖、ちょっとパパにそれ(シャワー)貸してごらん」 「やぁ~!り~くんのよ~!」 「ちょっとだけだ。ほら、綾乃の顔を早く洗い流してやらないと目に泡が入ってるじゃないか。このままだと痛くて目が開けられないぞ」 「う?」  由羅に言われてオレの様子に気付いた莉玖が、顔を押さえていた手を無理やり引きはがしてきてオレの顔を覗き込んだ。   「あ~の、たいたい(痛い痛い)の?よちよち」 「心配してくれてありがとな~莉玖。でも先に目を洗わせてくれ~……」 「あい!どじょ!」  莉玖が慌ててオレの前にシャワーを持つ由羅の手を引っ張ってきた。   「ぱっぱぁ、がんばって~!」 「ん?パパは何を頑張ればいいんだ?」  由羅が莉玖の謎の応援に困惑してマジメに聞き返す。 「おい、パパ!そこは気にしなくていいから早くシャワー!目がっ目がぁああ!」 「あぁ、すまん。……これで流れたか?こら、あまり強く擦るなよ」 「ん~……」  由羅にシャワーで泡を流してもらい、目を擦ったりパチパチ瞬きをして涙を出してようやく目が開けられるようになってきた。 「ほら、莉玖はもういいぞ。キレイになった」 「もぉ~!ぱっぱぁ~!り~くん、あ~のがごっちごっちって、~?」 「綾乃に洗ってもらったのか?だが、まだ頭に泡がいっぱいついていたぞ?」  オレが目の痛みと戦っている間、由羅は再び泡だらけになっていた莉玖の頭を洗い流していたらしい。 「あぁ、それな。さっきオレの髪を洗ってる時に泡のついた手で自分の髪も触っちゃったんだよ」 「なるほど。ところで綾乃、目は大丈夫か?」 「ぅ~……たぶん、もう大丈夫……あとで目薬させば……」 「そうか、それじゃあ、残りも流すからそのまま目閉じてろ」 「ふぇ~い……」  目を閉じていると、由羅の大きな手と莉玖の小さい手がオレの頭をわしゃわしゃしながらシャワーで洗い流してくれた。  その後、莉玖がオレと一緒にパパの頭を洗いたいと言い出し結局3人でお風呂に入ることになったので、その日は久しぶりに賑やかで楽しいお風呂タイムになった――…… ***

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