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働くパパはカッコいい? 第346話

「……どうだ?」 「……寝てる……よな?」  莉玖が眠ったのを確認すると、オレは由羅と顔を見合わせて大きく息を吐き、同時にベッドに倒れこんだ。  莉玖は久しぶりに3人でお風呂に入ったのがよほど楽しかったらしく、寝かしつけようとしても布団に横になろうとせずにオレの膝に座ってきてはずっとおしゃべりをしていた。  今まではわりと寝つきがいい方だったが、成長するにつれてだんだんと寝かしつけに時間がかかるようになってきたように感じる。  由羅が晩飯を食べて寝る準備をして寝室に入って来た時もまだ全然眠る気配はなく、むしろ「パパきた!よし、みんなでおふろのつづきしよ!」と言わんばかりに目を輝かせて更に興奮してしまった。  由羅と交代で絵本を読んだり子守歌を歌ったりして寝かしつけようと頑張ったが、おしゃべりが出来るようになってきた莉玖の弾丸トークは止まらない。  まだうまく発音できない言葉の方が多いし、文法もめちゃくちゃだが、それでもなんとなく通じるのが嬉しいのだろう。    オレたちも莉玖とおはなしできるのは嬉しいよ?  莉玖の想いを言葉にしてくれるのは嬉しい。たくさんしてくれるのは嬉しい。楽しそうな莉玖を見るのは嬉しい……  でも、まだ会話のキャッチボールは難しくて、こちらの想いは一方通行。  「そろそろ寝ませんか!?」というオレたちの切なる想いが伝わるのはいつのことやら……  いや、もしかして伝わってるけどスルーされてるだけだったりして?  昼間、由羅の会社に行っていろいろあったから疲れているだろうと思ったのだが、その疲れはお昼寝でリセットされたようだ。  若いっていいな~……ハハハ……はぁ~~…… 「あ~……ようやく寝たかぁ……」 「シィ~!起きちゃうだろ!?」 「おっと……」  慌てて口を押さえた由羅が、オレを見てふっと笑った。  なんとなくつられてオレも笑う。  これからイヤイヤ期になったらもっと大変だろうな……  なるべく昼間いっぱい身体を動かすようにして、眠気を誘うようにするしかないかな。  毎日この調子じゃ、オレの方が先に寝ちゃいそうだ…… *** 「――なあ、本当に弁償しなくていいのか?」 「ケガをさせたわけでもないし、服だってどこも汚れてないんだから、しなくていいに決まっているだろう?」  莉玖を起こさないようにふたりでオレの部屋に移動して、ようやく由羅に昼間の女のことについて、あの後の話を聞くことができたのだが…… 「あの後?普通にで解決したぞ?」  由羅は部屋に入るなりベッドに横になると、オレの質問に対して「もう話はついたから気にしなくていい」と詳しい話はしてくれなかった。    おいこら、わざわざ部屋を移動した意味!!  寝るならちゃんと自分の部屋で寝ろよ!  とはいえ、座る場所がないのでオレもベッドに腰かけた。 「でも……あのさ、オレのかわりに由羅が弁償するとか、何かオレのせいでその……脅されたりとかは……?」  自称とはいえ、あれだけ堂々と由羅の婚約者を名乗るくらいなんだから、あの女もたぶん由羅の会社に何らかの関係があるはずだ。  となると、今日のことをネタに強請(ゆす)られるとか……結婚を迫られるとか……会社同士のあれこれとかで何か由羅にとって不利なことになってたりしないのか?   「脅される?この私がか?」  枕にもたれかかった由羅はちょっと眉をあげると、フンっと鼻で笑った。 「なに笑ってんだよ!?オレは……オレはなぁ!本気で心配して……っ」  由羅の態度にムッとしたオレは思わず由羅に跨って胸倉を掴んだ。  茶化すなよ!こっちは本気で心配してるんだぞ!?  だって、オレのせいで……  オレが莉玖の手を離しちゃったせいだし…… 『綾乃くん、だ~いじょうぶよ!』 「へっ!?」  突然莉奈の声がしたので、驚いて由羅の胸倉から手を離した。  莉奈には莉玖の傍にいてくれと頼んでおいたのだが、家の中なら離れていても莉玖の様子はわかるらしいので、姿を消してオレたちの様子を覗き見していたのだろう。  油断も隙もねぇな…… 『心配しなくても、むしろ兄さんの方が脅……』 「おい莉奈、私にも聞こえているぞ?」 『あら、いやだ。ミスっちゃった!そ、そうね、心配よね~!私も心配だわ~!おほほほ……』  由羅にツッコまれた莉奈が、慌てて言葉を濁す。  オレだけに話しかけるつもりが由羅にも届いてしまったらしい。  莉奈のこの力はいったいどういう仕組みになっているのかわからないが、オレや由羅、莉玖のように霊感の強い人間が集まっている中で個人的に声を届けるのは結構難しいのだとか。    それにしても、莉奈は何か知ってるってことか?  あ、そうか!莉奈は由羅と一緒にあの場に残って事の顛末を見てたのか!  なんだよ、じゃあ由羅が帰って来る前に教えてくれれば良かったのに……  知っているなら莉奈にこっそり聞こうかと思ったが、頭の中で呼びかけてみても返事がない。  莉奈のやつ……さっさと逃げやがったな……!? ***

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