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働くパパはカッコいい? 第348話

「ハァ、ハァ――……」  由羅に散々くすぐられて笑わされたオレは、由羅の手から解放された時にはもう声も出せないほど息も絶え絶えになっていた。  途中、どうにかして反撃しようと由羅の脇腹もくすぐってみたが、全然きかなかった。  おかしい……よく子ども達ともくすぐり合いをしてたけど、いくら脇腹が弱いっつっても、オレここまで弱くなかったはずなのに……!?  っつーか、由羅は一体どこが弱点なんだよおおおお!?   「綾乃、大丈夫か?」  笑い過ぎて汗ばんだ額にはりついたオレの前髪を払いながら由羅が声をかけてきた。  本当に心配しているように聞こえるのがなんだかムカつく!誰のせいだよ、誰の! 「ハァ……だ、ゲホッ!大……丈夫に……ゲホッ、見える……か?」 「全然見えないな」  じゃあ聞くなっ!このっ…… 「……ば……かぁ……」  ダメだ……怒鳴る気力もない。  由羅の相手をするのも億劫で、肩で息をしながら目を閉じた。  あ~、笑い疲れた。このまま眠りた……い? 「ん……?」  覚えのありすぎる口唇の感触……  気のせいであれ!と念じつつ薄目を開けると案の定、目の前に由羅の顔があった。  ので、オレはそっと目を閉じた。    あ~もう……なんでこいつはすぐにキスしてくんだよ!?  よし、こうなったら寝たふりしよ! 「綾乃?」 「ネテマス」 「起きてるじゃないか」 「オレ、ツカレタ、ネル」 「なぜカタコトなんだ?」  喋る気力がねぇからだよ!  今日はもうこれ以上おまえのには付き合えません…… 「……」 「ふむ……なるほど!綾乃、それは寝込みを襲ってくれというこ……」 「とじゃねぇからな!?」  「なるほど!」ってなんだよ!?  ポジティブにもほどがあんだろ!?  オレは慌てて頭を起こして言い返した。  勢いがつきすぎて由羅にぶつかりそうになったが、由羅は華麗に避け、何事もなかったかのように話を続けた。 「なんだ、違うのか?」 「違うだろ!なんでそうなるんだよ!?」 「なんでって……好きな相手が自分ので瞳を潤ませて喘いでいるんだぞ!?その状態で目を瞑るということはどう考えても誘っているし、襲ってくれと言っているようなものだろう!?せっかくの据え膳を食わないなんてもったいないじゃないか!」  真顔の由羅が急に早口で力説してきた。  ちょっと何言ってるのかワカラナイヨ……?  とりあえず…… 「す、据え膳じゃねぇから食うな!」  だいたいこれはだなぁ?おまえがくすぐってくるから笑いすぎて涙が出ただけだし、喘いでるわけじゃなくて笑いすぎて呼吸困難になってるんですけど!?   「据え膳じゃないのか……」  なんでそんなにしょんぼりしてんだよ!?  オレが悪いみたいじゃんかぁあああ!! 「ぐ……と、とにかくオレは寝る!」 「もう寝るのか?まだ早いぞ?」 「誰かさんのせいで笑い疲れたんだよっ!」  それ以外にもいろいろ疲れたけど! 「だから今日はもう閉店です。はい、おやすみ~」 「……ひどいな。昼間頑張った私にご褒美はないのか?」  オレが枕にポスっと顔を埋めると、由羅が恨めしそうな声でボソリと呟いた。 「……ぇ?」  頑張ったってなにを?……もしかしてあの女のこと?やっぱりあの後なにか面倒なことがあったのか?  ……それならなんで……っていうか……由羅怒ってんのかな……  だから今日はやけにしつこいのか?  つまり、怒鳴ったり暴力振るったりする代わりのくすぐり(これ)なのか?  Oh!ソレハ平和的でとてもいいデスネ……!  でもさ……暴力はイヤだけど、オレのせいで迷惑かけたんだからせめて愚痴くらいは聞くんだけどな…… 「綾乃?」 「ぅ~~……わかった!由羅の気のすむまで好きにしてくれ!」  こんなことで由羅の気がすむなら、いくらでもくすぐってくれ!    オレは後頭部をガシガシとかき乱すと、仰向けになってベッドの上で大の字に寝転んだ。    もうくすぐられすぎて感覚が麻痺してきてるしな!さっきよりはマシなはず! 「好きにしていいのか!?いいんだな!?なら遠慮なく……」  どうぞどうぞ、好きにし……え、ちょっと待て!なんでそんなに嬉しそうなんだ……?  由羅が思った以上に食いついてきたので慌てて思考を巡らせたオレは、自分の発言の曖昧さに気付いた。  ヤバい!これじゃ好きにしていいって言ってるようなもんじゃないか!   「由羅、待っ……な、んんっ!」  慌てて起き上がろうとしたオレは、由羅に口唇を塞がれてそのまままた押し倒されていた。 「ちょ、んっ……ゆ……――っ!」 「好きにしていいんだよな?」  小さなリップ音を立てて口唇を離すと、由羅がふっと笑った。   「ま、待って!ちがっ……違うから!気のすむまでしていいとは言ったけど、くすぐるだけだぞ!?」 「くすぐるだけ?そんなこと言ってなかったし、私はがいい」 「……へ?」  それ以外って何!?き……キスか……?それとも…… 「えっと、それ以外は……じゃ、じゃあ、キス!キスだけ!くすぐるかキスな?それならいいだろ!?」 「キスだけ?」 「くすぐるか、キス!ふたつもあるじゃんか!」  何の文句があるんだよ!? 「ふたつって……ん?……うん、あぁ、そうだな……わかった」  不満気だった由羅が、ちょっと考え込んだ後なにやら思いついたようにニヤリと笑った。  あ゛……オレ、その顔知ってる……絶対ろくでもねぇこと考えついた時の顔!! 「ああああの、由羅?オレが言ったことホントにわかった?」 「くすぐりキスだよな?わかった。任せておけ!」  今のおまえにだけは任せたくないぃいいいい!!   ***

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