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第25話~これからの俺たち~

俺は創さんの言葉に耳を疑った。 (夢?……まさか、又、都合の良い夢をみているのだろうか?) ぼんやりしている俺に、創さんが不安そうな瞳で俺をみつめる。 「それとも、もうはじめは僕に気持ちは無いのか?」 悲しそうに呟かれて 「そんな訳、無いじゃないですか!」 思わず叫んで創さんを抱き締めようとした瞬間 「はじめ!ご飯用意出来たよ」 って、婆ちゃんが母屋から叫んだ。 「おばあ様が呼んでるから、行こうか」 そう言って立ち上がった創さん。 タイミングが最悪過ぎで、抱き締めようとした手が空振りしてしまう。 どうして俺って、いつもタイミングが掴めないんだろうって落ち込んでいると 「はじめ!聞こえたかい?」 ばあちゃんが離れのドアを開けて入って来た。 「すみません、今、伺います」 ばあちゃんに笑顔で答える創さんに、ばあちゃんは微笑んで 「近くで見ると、本当に良い男だよね」 って呟いた。 創さんが驚いた顔をしてばあちゃんを見ると 「はじめは、昔から面食いだったからね」 と、意味深な言葉を吐いてから 「冷める前に、早く来てちょうだいよ」 そう言い残して母屋へと戻って行った。 創さんが驚いた顔のまま 「はじめ…僕の話をおばあさまに…」 と呟いた言葉をかき消すように 「言う訳ないじゃないですか!」 って、叫んでしまった。 創さんはどう受け取ったのか、少し傷付いたような笑顔を浮かべて 「そうだよね、ごめん」 と言ってドアに向かって歩き出そうとした。 このまま誤解させたままじゃダメだって思って、慌てて創さんの腕を掴んだ。 「誤解しないで下さい。俺が創さんを好きだって気持ちを誰に知られたって構わないって思ってます。ただ、それで創さんに迷惑をかけたくないだけで……」 そう呟いた俺に、創さんは小さく微笑み 「はじめは……本当に優しいよね」 って呟いた。 まだ誤解したままなんじゃないかって不安でいると、創さんは俺の手をゆっくりと外して 「早く母屋へ行こう。おばあ様が作ってくださった食事が冷めちゃうよ」 と言って俺に背を向けた。 俺はゆっくりと立ち上がり、靴を履く創さんの後を着いて行った。 母屋に入ると 「田舎料理しか作れないから、お口に合うか分からないけど…」 そう言って、ばあちゃんが創さんにお茶碗を差し出した。 創さんはばあちゃんからお茶碗を受け取り、3人で食卓を囲んで食事を始めた。 すると創さんは、ばあちゃんのお味噌汁を口にして 「あぁ……はじめ君のお料理は、おばあ様の味だったんですね」 って微笑んだ。 するとばあちゃんは 「おばあ様なんてやめてちょうだい。ばあちゃんで良いですよ。私はそうね……」 と呟いたばあちゃんに 「創です。僕の名前は、創です」 って答えた。 ばあちゃんは創さんの言葉に 「じゃあ、創って呼んでも良い?」 そう言って微笑んだ。 「え!ばあちゃん、それはあまりにも馴れ馴れしい…」 と言い掛けた俺を、創さんは片手で制して 「はい!是非、創と呼んで下さい」 そう言って微笑んだのだ。 するとばあちゃんは嬉しそうに笑って 「孫が二人になった気分だね」 って言って、創さんにあれこれ食事を勧めた。 3人で食べた食事は思いの外美味しくて、特に創さんがとても楽しそうにしているのが俺は本当に嬉しかった。 俺達3人以外、誰も来ないこんな山奥で、創さんはとても穏やかに笑っている。 俺がそんな創さんの笑顔に見惚れていると 「じゃあ、明日は山に山菜を取りに行きましょう」 って、ばあちゃんと創さんが盛り上がっている。 「え!山菜って!創さん、朝早いんですよ!」 驚く俺に、創さんはムッとした顔をすると 「今、ばあちゃんに朝5時起きって聞いたよ!そんなに寝ていたいなら、はじめだけ寝てれば良いだろう」 って、創さんが言い出した。 いやいやいや! 都会暮らししか知らない創さんが、山菜採りなんて行けるわけないだろう!ってばあちゃんの顔を見た。 ばあちゃんは笑顔を浮かべたまま 「はじめ。創は、此処での暮らしを体験してみたいそうだよ。だったら、やらせてあげなさい」 と言ってお茶を飲んでいる。

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