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第4話
「弟が死んだのは高校に入る直前だった。双子の弟で二卵生だったから顔も似てなかっけど、性格も似てないってよく言われていた。でも仲は凄い良くてさ、弟がオメガになったってそれは何も変わらなかった」
燈夜は何を後悔しているんだろうか?辛そうな顔で何かを後悔している。
でも何を?
弟を死なせてしまったこと?それとも苦しむ前に死なせてやれなかったことだろうか?
「結構自分から突き進むタイプで性格は優しくて、『オメガも快適に暮らせる学校作りを』なんてスローガン掲げて生徒会長やってたんだよなぁ。なぁ、誰かに似てると思わねぇ?」
もしかしてーー
「俺?」
「そう……なんだよなぁ。知らず知らずのうちに来夢を弟に重ねてたんだよ。それに1週間前に気づいて、結構ショックだった。それで、もうあんな光景見たくないって来夢のこと避けて……って結構俺、酷いことした?」
「酷い、傷ついた。馬鹿、阿呆」
「そこまで言わなくても」
「俺は弟じゃない」
「うん」
「それに死にたいとも思ってない」
「うん」
「傷ついたから責任取れ」
「うん……って、え?」
燈夜の胸ぐらを掴んで至近距離で目を合わせる。
「お前が傷ついたのは分かった。弟が亡くなってたのを知って同情もする。でも俺はお前の弟くんにもっと同情する。俺とその弟くんが似てるんなら、お前に後悔させる形で死んだことを天国で悔やんでると思うわ」
「それ、は……」
「俺はお前が何に後悔してるかわかんないけど、お前も自分が何に後悔してるか分かってないだろ。でも、俺の自殺を止められればその後悔も消えるはず」
おそらく……
燈夜の後悔は最後に弟くんの気持ちが分からなかったことが原因だと思う。きっと、弟くんが死ぬ直前も死なせてあげるべきなのか、死なないように拘束し続けるべきなのか迷っていたんだろう。
どちらを望んでいた可能性も有り得るからどちらも想定して自分を責め続けている。
でも、今なら俺を助けることでそれを上書きできるんじゃないか?
弟くんのことは忘れられないだろう。というより忘れてはいけない。でもそこまで苦しみ続ける必要はない。というか、弟くんもそれは望んでいないだろう。
「俺は死にたくないけど色々と知らないことが多い。燈夜は情報を持っていて俺を救うことで後悔が薄れる」
俺のメリットは情報を得られることよりも燈夜と元の関係に戻れることだけど、それを今言うのは照れくさい。
「これで俺と弟くんはウィン・ウィンの関係になれるのだ。お前は何も言わずにそれに協力するだけでいいのだ」
「俺と来夢じゃないのかよ。つか、なんだその口調」
「だってお前はその後悔をなくしたいって思っていないのだ。俺は悲しいのだ」
というより燈夜は自分が後悔していることすら自覚していないのかもしれない。自分がその時の行動を間違えたのだと、だから弟は苦しんだんだと自分をただ責め続けている。
「ふっ、やめないのかよ」
「やめて欲しいのだ?」
「別に。来夢の言ってることはよく分かんないけど」
「いや、分かれよ」
「けど、来夢がめちゃくちゃ大変だってこと、俺が1番分かってるはずなのに逃げて傷つけた。ごめん」
「うん、それで?」
「俺に出来る限りのことはする」
「よーし、許してあげようじゃないか」
ふぅー、良かった。これにて一件落着だ。
「じゃあ、これからもよろしく」
「ああ、死ぬなよ」
「当たり前だ。燈夜こそ俺が死にたいって言っても殴って止めろよ」
「俺に来夢殴れるかなー」
「そこは殴れよ。俺に死んで欲しいのかよ」
「いや、そんなわけないだろ」
「知ってる」
そんなわけあったら今、こんな状況にはなってないもんな。
「……来夢さ、本気で死にたくないって思ってる?」
「ん……? どういう意味だよ。思ってるに決まってるだろ?」
「それならいいんだけどさ」
だって俺が死んだら灯が悲しむだろ?
「やっぱり来夢くんは足が早いねー」
次の日の放課後、俺と燈夜と蓮は燈夜の机に集まっていた。
「中庭で花壇を綺麗にしてるとは思わなかったなー。ちょっと悪いことしちゃったね。ごめん」
「いいよいいよ、蓮のおかげで燈夜と仲直り出来たし。なー、燈夜っ!」
「すみませんでしたー」
「それにしても10分であの距離来ちゃうんだもん。びっくりしたー」
蓮は昨日、俺達2人が化学室に揃うまで隣の教室に隠れていたらしい。どうりでタイミングよく連絡が来るわけだ。
この感じだと話の内容までは聞いていなかったみたいだ。
「は? あの距離10分で走ってきたのか? 相変わらずの足の速さだな」
「でも、体力落ちてきたんだよねー」
「それが正常だ。いや、それでも普通にアルファ並に早いわ」
ちょいちょいと人差し指で顔を寄せるようにジェスチャーされる。
「それで来夢、蓮には言ったのかよ」
「いやー、心配するかなって」
「そりゃそうだろうけど、後から知ると絶対怒るぞ」
「うっ……」
蓮は怒ると怖い。俺達2人が周りが見えなくなってマジで危ないことに首突っ込みかけた時の剣幕はヤバかった。
いつも優しい人が怒る時ほど怖いってやつだ。
「何2人で話してるのー? もしかして僕席外した方がいい?」
「いや、昨日のことを蓮にも説明しようかなと思ってさ」
「えっ? 話してくれるの?」
蓮は俺達が仲直り出来たなら首を突っ込むつもりはなかったらしい。しかし、話さないと後が怖い。
おそらく隠し通すことは出来ないだろうから。
そうして一通りのことを蓮に話した。
「僕、できることは手伝うからね! 遠慮せずに何でも言ってよ!」
一瞬暗い顔をしたもののすぐに元の顔に戻った。こういう時の蓮は強い。
あまり蓮のことを知らない人からすると意外に思うだろうが、1人で特進クラスに居座っているだけはある。案外神経は図太いのだ。
それでもあまり心配をかけたくはなかった。本当なら蓮は自分のことで精一杯のはずだから。
「うん、何かあったら言うよ。よろしく」
「まかせてよ」
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