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とある日の黒沢俊一。 5
仮に高橋が自分のことを好きだと言ってきても、応えてやることはできない。
昼食は会社近くの定食屋で摂ることにした。
「部長もこういう所に来るんですねー」
目の前で生姜焼きを頬張りながら高橋は言う。
「なんだ、意外か? 結構来るぞ」
黒沢はさば味噌煮定食を食べながら答える。
「外回りが多かった頃なんかは出来るだけ早く食える方がいいからな。 ファストフードもよく食べた」
黒沢は高橋が黙ったのが気になり視線を上げると、自分の手を見つめていた。
「高橋…?」
俺の手なんか見てどうしたというんだ。
黒沢の怪訝そんな声に弾かれたように顔を上げる高橋。
「えっ、あ、違うんです!別に部長の手に見とれていたとかそういうんじゃ、あ!」
早口で言い、そして気づく。
口をすべらせてしまったことに。
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