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とある日の黒沢俊一。 19

「高橋? 用がないなら」 「あの!」 早く帰れよと言おうとしたところで大声を出され思わず黙る。 「あ、すみませ」 「い、いや。…で、なんだ?」 思ったより大きな声だったのだろう。 自身もびっくりしたようで声のトーンを落とした。 フロアに人が居ないのが幸いだった。 外にあまり声が漏れない仕様になっているとはいえ、あそこまで大声だと何事かと思われてしまう。 「あの、瀬名さんのこと、なんですけど」 妙に躊躇いながら言い始めるものだから何かと思えば昼間の件かと黒沢は安堵する。 「瀬名が、どうかしたのか」 そう問えば高橋が何やらもじもじとしだした。 心做しか顔も赤い気がする。 おや、と黒沢は思う。これは……。 「瀬名さんと部長って、どういったご関係、なん、でしょうか…」 歯切れ悪く後半になるにつれ声が小さくなる。 ほぅ。まさか、高橋のやつ瀬名のことが。 昼間の心配は杞憂たつたというわけか。

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