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とある日の黒沢俊一。 21
花が飛んでいそうな笑顔で去っていく高橋を微笑ましい気持ちで見送る。
これどうぞ、と手渡されたのはよく黒沢が愛飲している缶コーヒー。
プルタブを開けようとすると付箋が貼られていることに気づく。
『部長へ。これ飲んでがんばってください。おつかれさまです。 高橋』
とメッセージが添えられていた。
スマイルマークまで書かれていて思わず笑いが漏れた。
全く、可愛い部下だ。
さて、早く終わらせて帰ろう。
部下の愛情が込められたコーヒーを一気にあおり
黒沢はあと少しで終わる書類にてをつけた。
次の休みは涼くんを誘おうとか
高橋を揶揄うネタが増えたとか考えながら
家路につく黒沢の足取りはいつもより軽かった。
おまけ。
家に帰った黒沢は気づいた。
朝とは何か様子が違うことに。
リビングの明かりを点けると、テーブルには美味しそうな料理と
«おかえりなさい。チンして食べてね»のメッセージ。
顔が緩むのが抑えられない。
いつだったか押し付けるように渡した合鍵で入って作ってくれたのだろう。
愛しさで胸がいっぱいになるのを感じる。
この相手を幸せにしたい。
早く愛していると伝えたい。
もうこの味に慣れた自分に驚きつつも
幸せを感じながら、黒沢は今日という日を終えた。
おわり。
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