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ここが、スタートライン 21

そして見合い当日。 普段よりは余所行き、けれどあまり派手ではないスーツを着て俺は見合いの場にいた。 父と母に挟まれながら、営業用の笑みと口調を携え会話を進める。 見合い相手の彼女は写真で見るよりも美しく、思ったように淑やかで大和撫子のようだった。 上品で可愛らしく、話した感じ申し分ないだろう。 しかし俺は物足りなさを感じていた。 彼女と話していても素の自分を出せるとは思えなかったし、そのやわらかな笑顔に癒されることもないと思った。 どうやっても涼くんと比べてしまうし、失礼だと思いつつも涼くんのことを考えてしまう。 早く終わらないだろうか。 しかしこのままでは相手に気に入られてしまう。 自分でいうのもなんだが、完璧すぎて嫌われる要素が見つからず困っている。 営業用なのだから当然だが、破談の方向に持っていこうとするにはあまりに無理がある。 どうしようかと考えながら会話を続けていると、雰囲気が変わった。 「いやあ、俊一くんは素晴らしい人だね。私も気に入ってしまったよ。娘も気に入ったようだし、どうかね、そろそろ若者2人で…」 相手の父親の一言にそうですねと両親が立ち上がろうとしたその時だった。 「そのお見合い、ちょーっと待ったぁぁぁぁ!」 スパーンという音と共に思い切り良く襖が開けられた。

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