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ここが、スタートライン 25

よく考えればあの場にああいった手段で乗り込むなど、涼くん以外でいないだろう。 頼めば瀬名もやるだろうが、今回のことは話していない。 そもそもどうにかして断るつもりだったのだ。 が、意外にも先方に気に入られてしまったから困ってはいた。 「と、とりあえず助かったよ、ありがとう。でも、何故女装を?」 俺をあの場から連れ出す為とはいえ、あそこまでする必要はあっただろうか。 しかもあんなキスまで…。思い出していたたまれなくなる。 「似合ってるでしょ?」 涼くんはそう言ってくるりと回ってみせた。 「似合っている!…じゃなくてだな」 思わず力強く頷いてしまったが、俺が知りたいのは何故女装までして乗り込んできたのか、だ。 そういう意図をふくんで涼くんを見ると 眉を八の字にして「分からない?」と聞いてきた。 分からないから聞いているんだという言葉を飲み込んで頷く。 すると少しの距離をつめ、俺の前へ来ると 真剣な顔で見つめてくる。 何度も見ているはずの涼くんの上目遣いが 何故か今日は別のものに見えて、どぎまぎしてしまう。 「好き」

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