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バレンタイン編 3
バレンタインコーナーに足を踏み入れ黒沢は絶句した。
どこを見てもチョコ、チョコ、チョコ……。
甘ったるい匂いが充満している。
甘い物が得意ではない黒沢にとっては一刻も早く立ち去りたい場所だ。
けれど。
涼くんのためだ。
愛しい恋人を想い、今一度決心した。
真剣にチョコレートを選んでいる中
遠巻きに女性たちが話していることを黒沢は知らない。
「ねぇ、ちょっとあの人かっこよくない?」
「え、ちょ、渋イケメンじゃん、タイプ!」
「真剣に選んでるけど、彼女にかなー?」
などなど。
顔がいい男とは悩む顔も画になるものだ。
本人はいたって真剣なのでそんな声など届いてはいない。
悩みに悩んで選び、そこを出る頃には
バレンタインコーナーで真剣にチョコを選んでいるイケメンがいると聞いた女性たちが群がったという。
その群れを素知らぬ顔で縫うように抜けて黒沢はデパートを後にした。
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