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バレンタイン編 6

会社を出て間もなく携帯が震えた。 «お疲れ様です。 早く帰ってきてね。 待ってます 涼» 簡単なメッセージ。 ポコン。 続けて送られてきたメッセージに 思わず頬が緩む。 逸る気持ちをおさえ、足早に歩みを進める。 涼くんが家で待っている。 そう思うと足取りは軽く、先程までの疲れもどこかへ行ってしまうようだ。 先程の瀬名の意外そうな顔を思い出す。 あんな顔をされるのも無理もない。 お互いに今まで、ロクな恋愛をしてこなかったことを知っている。 だからこそ、黒沢が寄せられる好意を全部断る程の相手ができたのが本当に意外だったのだろう。 自分が瀬名の立場でも同じ反応をするだろう。 それくらい、恋人の存在は自分を変えた。 初めて自分から好きになった相手だからこそ 大切にしたいし、生涯を共にしたいと思った。 涼くんに出会えた自分は今幸せだ。 この歳で思春期のような恋愛をしている。 今日が来るまでに 何を贈れば喜ぶだろうかとか 苦手な甘い香りのする場所に行ったりとか かなりの時間、頭を悩ませた。 自分をここまでさせるのは後にも先にも涼くんだけ。 早く帰らなければ。 あのチョコレートを喜んでくれるだろうか。 自然と緩む顔を引き締めながら 自宅マンションを目指す。

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